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{どうでもいい話し合いと、真面目な話し合い} アンジェラスの視点 ご主人様は愛車のスカイラインを運転してアンダーグラウンドに向かっています。 私はご主人様の右肩に座っているのですが…。 ちょっと車の中は居た堪れない空気になっているのですよ。 何故かと言いますと。 「ねぇーご主人様。今日はいったいどのようなご用件ですか?」 「………」 ご主人様は運転に集中しているのか、さっきから私が声を掛けてもうんともすんとも答えてくれないのです。 ズーッと無言でズーッとシカトです。 別に機嫌が悪いとかじゃないと思うのですが…何かこぉ~、考え事をしているような感じですかね。 今はそれだけの事しか考えられないみたいなぁ。 ご主人様がこんな感じになってしまった原因は、あのアンダーグラウンドの住人、ご主人様が言う通称オヤッさんその人である。 帰宅したご主人様は私とまた煙草の事で口論してる途中、オヤッさんから電話がきて、ご主人様が電話に出てのですが。 電話している時間が経つごとにご主人様の顔は厳しくなり真剣な表情に変わりました。 そして電話が終わった後の私に向けられた言葉が一言、『行くぞ、アンジェラス』です。 電話の内容も何も言わずに家を出るご主人様に私は『はい!』としか言えず、付いて来ましたのが今の状況に繋がる訳です。 車を走らせるご主人様は無言で前を見続ける。 私はそんなご主人様の顔を見る事しか出来なかった。 そうこうしている内にアンダーグラウンドの町に入りご主人様は駐車場に入る。 駐車場の適当な場所で車を止めて車から出る。 その時でした。 ご主人様が低い声で私にこう言いました。 「これから起きる事は何事にも驚くな。後、俺の命令に絶対に従えよ。解ったな?」 「は!?はい!」 その時のご主人様の顔は怖かったです。 いつも苦笑いしたり、ニヤつきながら私を褒めてくれるご主人様じゃなかった…。 まるで別人のようでした。 顔はご主人様でも違うご主人様みたいな…。 冷酷で人間の感情が無いよな感じ。 「解ったのならいい。今から一言も喋るな。黙って俺について来い」 無言のまま私は頷いた。 するとご主人様は私を一瞥してから駐車場から出た。 アンダーグラウンドを歩き数分。 神姫センターが見てきました。 今日はここに行くのでしょうか? 確認したいのですけれど、ご主人様は私に『一言も喋るな』と言ったので喋る事が出来ません。 …いったいご主人様はどうなちゃったでしょ。 あ、神姫センターを横切りました。 今日はここに用は無いみたいです。 じゃあ何処に行くんだろう。 そして更に数十分が経ちました。 ご主人様は一つのバーに入りました。 お酒を飲む場所とデータでは知っていますが…。 私が実際に見たバーとデータで理解していたバーとは全然違いました。 やっぱり実際に行くのとデータだけでは、経験値が全然違いますね。 「お、時間通りに来たな。おーい、閃鎖ーこっちだー」 「………」 通称、オヤッさんの人が一つの卓上のテーブル近くの椅子に座っていました。 左右に二人づつ座れる場所です。 そしてそのテーブルの周りにグルリと円状に囲んだ怖い男の人達がズラリといました。 チンピラとかヤクザの名がつきそうな人達ばかりです。 ご主人様はそんな人達の間を入ろうとすると男の人達は十分に歩けるスペースを作り退く。 まるで歓迎されているような感じ。 それと同時にご主人様がその間を抜けると逃げられない様にがっしりと周り固める。 正直、もう私はビビッています。 「まぁ掛けて下さい」 「…はい」 オヤッさんの反対側に座っていた二人のいかついオジさんが態々立ち上がり座る事を勧める。 ご主人様は低い声で答えオヤッさんの隣に座っり、いかついオジさん達も同時に座る。 ご主人様は両手をポケットに突っ込んだまま。 礼儀がちょっとなってないと注意したいですが、今は喋っちゃいけません。 といいますか、こんな張り詰めた空気の中で喋りたくありません。 「さて、役者が揃った所で話しを始めますか」 一人のいかついオジさんが先に喋りだしました。 「まず今回、閃鎖さんをお呼びにしたのは我々の不始末を言いたかったわけです」 「どのような不始末ですか」 オヤッさんはご主人様の代弁をしてるように答えた。 「まずこれを見てください」 もう一人のオジさんが頑丈そうなアタッシュケースを取り出してきて中身を見せてくれました。 中身に入っていたのは、数枚の何かのリストみたいです。 ご主人様は無言でそのリストを全部受け取り目をとおす。 私もご主人様の右肩にズーッといるのでついでに見せてもらい、そしてすぐにその紙に書かれてるリストがなんなのか分かりました。 この紙は記されてる内容はすべて武装神姫の違法改造武器です。 しかも武器の全ての製作者覧がご主人様の『閃鎖』という名前で埋め尽くされていました。 「見ての通り。我々も色々な事に手を出して仕事をしている訳ですが…今回、この武装神姫で一つ閃鎖さんにご迷惑をかけてしまった。おい、アレを」 「はい」 命令したオジさんがもう一人のオジさんに命令し、次は海外旅行で行くときに使われる大きなハードケースを出してきました。 そしてハードケースを開けると。 「ン~~~~!?!?」 一人の男の人が両腕両足を頑丈な紐で縛られて口には叫べないようにガムテープが張られています…パンツ一丁の姿で…。 「うちの者です。こいつは自分が儲けるように無断で閃鎖さんの商品を無断で売り捌いていたんだ。オマケにうちの島ならともかく、他の島で売ってやがった」 「おかげで、他の島の連中達が怒ってうちの組にけしかけてきて大変でした」 「治まりはついたのですか?」 今度はオヤッさんが冷静沈着に言う。 いつも見ていたオヤッさんも別人を見てるようです。 「そこら辺はご心配なく。うちの組がそれなりの金額を譲渡したので。赤字なのは変わらないが…」 「そうですか。ではこいつをどうするんですか?」 「この者の処分は閃鎖さんの言葉で決まる。生かすのも殺すのも閃鎖さん次第です」 「………」 ご主人様はバサッとリストされている紙を全て机に置き煙草に火をつけた。 「…そのゲス野郎にチャンスを与えてやる。だが、もし次にヘマしたら命は無いと思え、と言っとけ」 「生かしておくのか?」 「人間、一度は欲に負ける事がある。けどもう一度同じ過ちを繰り返したらそいつは学習能力が無い訳だ。そんな人間は生かしとく必要は無い。この町で生きていくには学習が必要な事だからな」 「そうか。閃鎖さんがそう言うなら分かった」 「これで俺の用事は済んだか?」 「いや、もう一つある。この件でうちの懐が少し寂しくなっちまったものだから、少し閃鎖さんの商品を取り寄せをしたい」 「なら、オヤッさんに言ってくれ。俺は開発者なのでね。帰ってもいいか?」 「そいう事ならもう結構です。この度は申し訳なかった」 「気をつけて仕事してくれよ」 そう言ってご主人様は立ち上がり店をでようとした。 「おまえら閃鎖を送れ」 「いい、一人で帰れる。後は頼むぜ、オヤッさん」 「おう、任しとけ」 そしてご主人様と私は店を出た。 …。 ……。 ………。 ご主人様の車に乗って数分が経ちました。 丁度、アンダーグラウンドの町から出た頃です。 その時でした。 「今日は悪かったな」 「エッ?」 ご主人様が私に話してくれました。 最初みたく冷酷な声ではなく、温かみがある声でした。 「なんとなく…解ったろ?俺が今日、お前にきつく言った言葉がなんなのか」 「はい…。でもなんであんな風に言ったのですか?」 「その言い方だと、まだ少し解ってないみたいだな」 煙草に火をつけ運転席側の窓を全開にするご主人様。 煙は車から外に出て消えていく。 「お前には必要だと思ったからだ。俺が今どいう立場にいるのかちゃんと理解しているのかな…てな」 「立場?」 「そう。お前、もし俺がなにも言わずにあんな所に行ったらどうしてた?」 「それは…多分、ご主人様を止めて無理矢理にでも連れて帰ろうとします。ご主人様にはなるべく普通の生活して欲しいですし」 「…はぁ~。やっぱりそんな事かぁ」 溜息を吐き煙草を右手で持ちながら運転する。 「アンジェラス。俺はな…普通の大学生、天薙龍悪の顔をと今日見せたヤクザと商売している閃鎖の顔を持っている」 「二つの顔ですか?」 「そうだ。それに俺はどちらかというとこっちの世界の住人に近い」 「そんな!?ご主人様は普通の人です!」 「ヤクザと仕事上関係をもってる奴がか?」 「………」 「おやおや、黙まりか?中臭い設定だが、残念だけどこれは現実だ」 私は衝撃の事実を知ってしまい俯く。 まさかご主人様は表の世界の住人でもあって裏の住人でもあるという事に。 今はまともにご主人様の顔を見る事ができません。 「幻滅したか?嫌いになったか??別に俺は構わないぜ。今日はあえてお前を連れて来たんだ」 「…あえて…ですか?」 「あぁ。アンジェラスには俺の全てを見て欲しかったんだよ」 「全て…」 私はやっとの思いで顔を上げご主人様の顔を見れた。 ご主人様の顔は苦笑いしていました。 「なんて言えば良いんだろうなぁ?アンジェラスなら俺の秘密を教えてもいいかな、と思っちゃうんだ。上手くは言えないが多分俺はお前に心を許してるんだろうな」 「私だけに心を許す…それってつまり」 「んぅ~、まぁそのなんだなぁ。俺にとってアンジェラスは特別な存在というか信頼し合える者同士というか…あーもうなんて言えば解らん」 「そうですか。私だけが、ご主人様と特別な関係を持っているのですね!」 「そいう事にしといてくれ。だぁー、なんか恥ずかしいぜ」 「クスクス♪」 私は笑いました、心の底から。 嬉しい気持ちでいっぱいです。 だって、ご主人様から『お前だけに心を許す』なんて言って頂けたのですから。 これで私はまた新しいご主人様の姿を見れました。 もっと色々なご主人様が見てみたいです。 「笑うな。ガチで恥ずかしいんだから!」 「クスクス♪すみません。でも嬉しくて…クスクス♪」 「だから笑うなって!」 そう言うご主人様も笑っているじゃないですか。 さっきまで気まずい雰囲気だったのに今はお互いを理解しあって笑っている。 嫌な一面も見てしまいましたが、今日はまたご主人様との距離が近くなったような気がします。 ご主人様、私はいつでもご主人様と一緒ですよ。 今日からまた一つよろしくお願いしますね、私が大好きなご主人様♪
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与太話10 : TVアニメ化に喜ぶ戦乙女 雨上がりの朝、濡れた草木が朝日の光を乱反射させ、教室内をいつもよりも明るく照らしている。大学までの道も輝いていた。ガードレールも輝いていた。エルにとって今日はとにかく、何でもかんでも輝いていた。 大学で顔を合わせるなり姉妹二人はこみ上げてくる気持ちを抑えきれず、抱き合わずにはいられなかった。 「メル!」 「エル姉!」 ぶつかり合うように胸を合わせ、エルはメルを抱え上げて振り回した。ジャイアントスイングのように。そしてやはりジャイアントスイングのように手を離し、メルを放り投げてしまった。危うく机の上から転げ落ちそうになるメルだったが、縁にしがみつきながらもゲラゲラ笑いが止まらなかった。メルを引っ張りあげたエルは、またメルと抱き合った。 「TVアニメ化ですよメル!」 「TVアニメ化だねエル姉!」 「アルトアイネスが登場しますよメル!」 「アルトレーネが登場するねエル姉!」 窓から差し込む光に照らされた机の上を、戦乙女の姉妹はしばらくもつれ合い転げまわっていた。二人のオーナーは前日からはしゃぎっぱなしだった二人を見ていたので、羽目を外していても苦笑するだけだった。姫乃も鉄子も、発狂に近い喜び方をする二人に水を差す理由はない。一緒に喜ぶわけではないが、微笑ましいものを見るような目をしていた。 騒がしさに何事かと集まってくる学生を相手に、エルとメルは自分達の姿がアニメーションとなってテレビに映ることを嬉々として説明した。相手が武装神姫に興味があろうがなかろうが関係なかった。喜びを押し付けるように笑顔を振りまいた。 MMSの存在を知らない学生相手に、エルは天使型と悪魔型と一緒に並ぶことがいかに破格の扱いであるかを説いて回った。これまで武装神姫コンテンツの看板を必ず飾ってきたアーンヴァルとストラーフ。つまり二人は最初期の神姫にして永遠の主人公とも言える。その他多数の神姫達の頭を押さえて、その主人公らの隣に立つアルトレーネとアルトアイネス。キュートなラフ画。ハーレムとバトルを予感させる解説は、神姫として在るべき姿になることを示している。これからの武装神姫を背負って立てと言われたような気がして、しかしエルは重圧以上に天にも昇る気持ちに包まれていた。メル共々、浮かれポンチだった。 二人の背中にコールタールを塗りたくるように向けられたドス黒い視線に、エルとメルは気づけなかった。 ◆――――◆ 大学から帰宅するなりオンライン上の茶室に呼び出されたエルは、コタマが渋い顔をしている理由に思い至らなかった。メルも隣で困惑している。四畳半の真ん中に置かれたちゃぶ台の上には、脱ぎ捨てられたヴェールと十字架があった。エルには、レラカムイの矮躯を包む修道服がいつもより黒く見えた。 「そこに座れ」ちゃぶ台の反対側をコタマが指差し、エルとメルはそこに座った。 「先に言っとくけどよ、アタシは別に嫉妬してるわけじゃねぇんだぜ? 分かるだろ、体はレラカムイでも主に仕えるこの気持ちはそう簡単に無くなるわけじゃねぇ」 「はあ」と気のない返事をするメル。 「アタシら神姫は主の前では謙虚であるべきだ。型番を与えられた日やらモチーフに貴賎はねぇ。主の前ではすべで平等だ。違いがあるとすれば、どれだけ主にゴマすったかどうかだけだ」 「コタマ姉さんが何を言いたいのか、これっぽっちも分かりません」 行儀よく正座したエルに向かって、コタマは大きなため息をついた。一週間分の呼吸に使う空気を吐き出したようなため息だった。これには機嫌の良い戦乙女姉妹も不快感を示さずにいられなかった。 「人を呼び出しといてその態度はないんじゃない? 親しき仲にも礼儀ありって言葉があるでしょ」 「そうですよ。あのマシロ姉さんですら線引きはちゃんとしてるんですからね」 「マシロね……オマエら、クーフランの名前を出すわけだ」 机の上の十字架を手に取ったコタマは意味も無くそれを天井の蛍光灯にかざした。磨き上げられた金色が、今朝の露のように輝いた。 「オマエら、マシロ以外のクーフランを見たことあるか?」 考える間をおかず、エルとメルは頭を振った。コタマは二人を嗜めるように言った。 「そうかよ。じゃあもう一つ聞くぜ。そんなマシロの前でTVアニメ化の話をすることは酷いことだと思わねぇか?」 エルは頭をハンマーで殴られたような衝撃に襲われた。確かに今日は朝から、マシロはいつにも増して沈黙を守っていた。思えば、戦乙女がアニメに出るということは、他の神姫が登場する機会を奪ってしまうことになる。アルトレーネより早く生まれた神姫は多い。クーフランはさらに古参と呼べる神姫になる。出荷数も全然違う。 何も言わないマシロを無思慮な振る舞いで傷つけていなかったか、エルは頭を抱えた。鋼よりも強い芯を持つマシロとはいえ、アニメに登場するからといって無思慮にはしゃぐエルを間近で見せつけられて不愉快でないわけがない。かつて自分も含めたアルトレーネ達は再販が決まらなかったからと神姫センターで大暴れしたではないか。あの時のすべてを破壊し尽くしたくなる衝動を他人に押し付けていいわけがない。 「私、マシロ姉さんになんてひどいことを」 メルも同じことを考えていたらしく、申し訳なさそうに視線を落とした。 「ボクも……TVアニメ化されて少し、調子に乗ってた……」 「やっと分かってくれた?」コタマは修道服を脱いだ。修道服がスイッチになっているのか、言葉がいくぶん柔らかくなった。 「アタシもちょっとキツいこと言ったかもしれないけどさ、二人には落ち着きってものを知ってほしかったんだよ。うん、でも分かってくれてよかった。いや本当。じゃあ一応のケジメとして、ゴメンナサイしとこうか」 エルとメルは素直に頭を下げようとした。神妙な顔をして、背筋を伸ばして頭を5ミリくらい前に倒したところで、二人同時に同じことに気がついた。 「ちょっと待って下さい。どうしてコタマ姉さんに謝らなきゃいけないんですか」 「そうだよ。謝る相手はマシロ姉でしょ」 コタマは目を逸らした。 「そ、そんなの決まってるじゃない。アタシはマシロと一緒に住んでるんだし、代わりに二人の謝罪を聞いとこうって」 「マシロ姉さんをここに呼んでくれればいいじゃないですか。そしたら私たち、ちゃんと謝りますよ」 「そうだそうだ。そもそもマシロ姉なら、こんな回りくどい謝罪なんてされたら逆にキレるに決まってるじゃん。一緒に住んでるコタマ姉ならそこんとこよく分かってるでしょ、なのにどうして――」 そこまで言ったメルだったが、「――あっ」と何かに気づいた風に見えるや、口をつぐんでしまった。顔が申し訳なさそうなものに戻った。 「どうしたんですかメル」 「えっと、やっぱりコタマ姉に謝ろうよ」 「嫌です! 意味もなく謝るなんで戦乙女がやっちゃダメです!」 「いいからほら、ね。ここは頭を下げなきゃいけないとこだよ。……レラカムイ相手にさ」 「うぐっ!?」とコタマが唸った。 エルはようやく、レラカムイがクーフランと同じくコタマ以外に見かけないことに思い至った。鉄子さんはいったいどこからレラカムイを見つけてきたんだろう、と疑問に思ってしまうほどだった。決して貶したいわけではない。ただ事実として、レラカムイの絶対数は少なかった。 「ま、待った待った二人とも。アタシは別に」 「ごめんコタマ姉。ボク達、コタマ姉の気持ちを全然考えてなかった」 「だ、だからアタシは別に」 「今までタマちゃんとか呼んでごめんなさい。コタマ姉さん、悲しいことがあったら私達に何でも相談してください。無力ですけど、きっと力になれますから」 「謝るんじゃねえ! アタシをそんな目で見るんじゃねえ!」 「私、コタマ姉さんの気持ちはよく分かりますから。アルトレーネも昔、『不人気』って言われたことありますし」 「どういう意味だコラァ! つーかテメェ今さりげなく不人気のことを過去形にしやがっただろ!」 「えっ? それはだって、アニメに大抜擢されましたし」 「ブッチ殺す! オマエ絶対ブチ殺してやらああああああ!」 ◆――――◆ ステージに立つなりエルとメルは、コタマ操るセカンドの銃弾の奇襲を受けた。 「エル姉隠れるよ!」 掠るだけでも体が抉られるほどの脅威を、二人は十数階建てのビルの影でやり過ごした。以前も同じようなシチュエーションがあったな、とエルは思った。あの時は確か、神姫の漫画が発売された時だった。漫画の中でアルトレーネが目立ちに目立って、メルと力を合わせてコタマを倒そうとした。しかし漫画の中にハーモニーグレイスの『ハ』の字も無かったことにキレたコタマに、二人のコンビネーションはまったく歯が立たなかった。 「今度は前と同じようにはならないよ」エルの手を引いたメルが言った。アルトアイネス専用の黒い武装脚とスカートを装備し、副腕の代わりにエルを包んでいるのは吸血鬼が着ていそうなボロボロの赤いマント。スカートの中には大量の武装が隠されている。隠し武装のバリエーションは、貞方にもらわれたばかりの時とは比べ物にならないほど充実している。姉であり頻繁に手合わせをするエルでさえ、そのスカートの中身をすべて把握することはできなかった。ビルの中を走る間も、メルはスカートから小型の爆弾をいくつも取り出し、そこら中に設置していった。 「ボクもエル姉も、もう昔とは違う。まだまだコタマ姉のほうが圧倒的に強いけどさ」 「私達にだってプライドってものがあるんです。メル、意地でもコタマ姉さんに一泡吹かせますよ」 ハイタッチを交わした二人は、別の方向へ走り出した。メルはそのまま一階の奥のほうへ。エルは階段を駆け上がっていった。メルがビルの端まで到達して身を隠したあたりで、入り口のほうの爆弾が炸裂した。続けていくつかの爆弾も、爆竹のように次々と爆発していく。コタマが入ってきたことを告げる爆発だ。事務所を模したフロアは机や椅子、棚などがいくつかの島を作って並べられていて、爆発した箇所にあったものが吹き飛んでいく。 「オマエらよぉ、まさかまたビルん中から仕掛けてくるんじゃねぇだろうなあ。もう同じ手は食わないとか思ってるんだろうけどよ、それはアタシだって同じ事なんだぜ?」 コタマが階段に足をかけると、進路を塞ぐように多数の浮遊機雷が発生した。コタマは慌てることなく下がり、爆発をやり過ごした。爆風で階段が吹き飛び、上階との道が途切れた。 「上がるなって意思表示か? アニメに出る奴はアタシに命令できるほど偉くなんのか? エル! メル! どっちかまだ一階に残ってんだろ! 隠れてないで出てきやがれ!」 しかしメルの影は姿を現さず、代わりにコタマが進む分だけ爆発が起きた。爆発は小規模だが、数が多い。コタマは数歩歩く度に爆発を回避するために下がらざるを得なかった。ビルの中心部あたりまで歩くのに少々時間がかかった。 「クソッ、このウザいトラップはメルの奴だな」 「ボクを呼んだ? コタマ姉」 メルは唐突に姿を表した。コタマからは離れた場所、少なくともファーストの攻撃範囲よりも僅かに外に立った。メルの両手にはそれぞれマシンガンが握られていた。コタマのセカンドの対物ライフルと比べると、あまりに頼りなく見えてしまう。 「いい度胸してんじゃねえか。一応聞いとくけどよ、エルも近くにいるのか?」 「いないよ」とメルがやけにあっさりと答えたため、コタマは怪訝な顔をした。 「アタシを出し抜きたい気持ちは分かるけどよ、もっとマシな嘘つけよ」 「嘘じゃないって。本当だよ。じゃあ証拠に、ここらの爆弾を全部爆発させようか」 「ああん?」 「エル姉は、というか普通の神姫は至近距離の爆発を回避したりできないから防御装甲が分厚くなるんだよ。だからもし軽装のエル姉がこの近くにいたら、爆発に巻き込まれて大ダメージを受けることになるよね」 「何が言いてぇんだ?」 「そのまんまの意味だよ。エル姉がいないことを証明するために、今から残った全部の爆弾を爆発させるんだ」 メルはおもむろに両手のマシンガンをコタマではないほうに向けて撃ち始めた。弾が当たった爆弾が爆発し、メルのマントを揺らした。ひとつ爆発するごとに土煙が巻き上がり、コタマとメルの視界を遮った。 (爆発で破片を飛ばしてくるでもなし。煙幕が目的? いや、メルの位置はマシンガンの火で丸わかりだし)ファーストとセカンドに防御の姿勢をさせて、コタマはじっと様子を見た。しかしマシンガンの火が唐突に向けられるわけでもない。メルはただ自分が仕掛けて回った爆弾をヤケクソに爆発させているだけにしか見えなかった。土煙の向こう側で、マシンガンがひっきりなしに弾を吐き出し続けている。 (わざわざ仕掛けて回ったのを意味もなく爆発させて何を――――いや、【仕掛けて回る】?) コタマが動いた。メルの姿は既に目視できなくなっており、セカンドにおおよその位置を撃たせた。セカンドの銃声で一旦マシンガンの音が止まったが、再び鳴りはじめた。それでコタマの疑念は確信に変わった。 「ビルを崩壊させる気かよ!」 メルを置いてコタマは外に向かって走り出した。それを合図にしたかのように、天井の崩壊が始まった。机や瓦礫を飛び越えながらコタマは舌打ちした。 「あの爆弾は柱を壊すためだったのかよ! クソッ、アタシとしたことがどうして気づけなかった!」 地鳴りのような音がして、床との間にあるものすべてをプレスするように天井が落ちてきた。メル自身も恐らく逃げられないだろうが、コタマに確認する余裕はない。壁を突き破るためにファーストを先行させてガントレットを繰り出した。コタマが通れるだけの穴を開けさせるつもりで叩き込んだ打撃は、しかし、壁を粉々にすることができても、大穴を開けるには至らなかった。天井がコタマの頭上僅かまで迫る。一か八か、僅かに空いた隙間に頭から飛び込んだ。膝から先が崩落に巻き込まれた。足が使い物にならなくなるよりも、ビルの一階外側部分に張り巡らされていたワイヤーに気を取られた。 濁流に巻き込まれるように、コタマの軽い体は転がっていった。幸いなことにビルが崩壊する方向はコタマが飛び出した側とは逆だった。隣に立っているビルに寄りかかるように倒れ、そのまま自重を支えきれずに真ん中から折れて崩れていった。 「ゲホッ、う、うう……」 さすがのコタマも無事では済まなかった。瓦礫に寄り添うように、道路に仰向けに倒れていた。千切れた足だけではなく、全身を襲うダメージに顔をしかめた。ファーストとセカンドはビルの下敷きになっている。 「っ……久しぶりに、本気で神に祈りたい気分だぜ」 「ではそのまま祈ってて、動かないでください」 エルが空から降らせた言葉に、コタマは心底驚いた顔をした。せっかくメルに借りたワイヤーを仕掛けて待っていたのに忘れられちゃ困る、と思ってエルは、コタマに向かって頭から落下しながら、二振りの剣を構えた。 「『スカーレットデビル』――これで最後です!」 「ざけんじゃねぇ!」コタマは最後の力を振り絞って、右手の十字架からエルに向けて糸を伸ばした。左手は動かなかった。接続された糸が制御系統を奪い、エルの右手が意思に反して刃を自身の胸に向けた。 「『FTD3』だ自決しやがれぇ!」 「その前に死んでください!」 エルの加速に乗った剣と、自身の胸を貫こうとする剣。コンマ一秒が何秒にも引き伸ばされたような感覚だった。エルは時間が意味をなさなくなる中で、二つの刃が同時に目標に沈んでいくのを見た。 ◆――――◆ 茶室に戻ってからしばらく、エルとメルは言葉を失っていた。 「なんだよアンタら、何か言いなさいよ」 修道服を脱いだコタマにそう言われ、戦乙女の二人は顔を見合わせた。 「だって、その」 「ねえ?」 エルにはまだ【さっきのこと】が信じられなかった。メルも同じ顔をしているから、同じことを考えているのだろう。勝つために戦っていたし負けるつもりもなかった。しかし頭の片隅では、二人がかり程度では絶対に勝ち目がないと考えていた。それほどまでにレベルが違う。努力でどうになかる高さではない壁がある。悔しいとすら思えなくなるほどコタマとの差を認めてしまっていて、それはエルに限らず、『ドールマスター』を知る誰もがそうだった。 「でも、引き分けました」 「『ドールマスター』と引き分けたね」 「すごいこと、ですよね」 「すごいこと、だよね」 「自慢、できますよね」 「TVアニメ化くらい自慢できるね」 「は……」 「ははは……」 「「あっはははははははははは!!」」 たまらずエルとメルは抱き合った。ちゃぶ台を蹴飛ばして四畳半の上でもつれ合った。棚に背中をぶつけようと、花瓶をひっくり返して頭から水をかぶろうと二人は構わず、今朝の大学を再現するように転げまわった。じゃれ合う肉食動物の子供のような二人を、部屋の隅でコタマは冷めた目で見ていた。 「引き分けでそんなに喜ばれても……アタシはどんな顔すればいいの?」 顔をくっつけて笑い合う二人が答えてくれるはずもなく、大きなため息をついたコタマは茶室から出ていった。残された二人はその後も転げまわり、茶室の備品をひとしきり破壊してようやく転がるのをやめた。 「ふう……あれ? コタマ姉さんがいませんよ」頭からかぶった花瓶の水を切りながらエルが言った。 「もう帰ったんじゃない? ボク達も帰ろうよ。ショウくんとハナ姉に報告しなきゃ。きっと驚くよ~」 エルは落ち着いてあたりを見回して、ちょっと浮かれすぎたと反省した。データだからいくら備品を破壊しても問題ないとはいえ、これではTVアニメ化されるに当たって全国に姿が流れる戦乙女として恥ずかしい。メルの言う通り、早く退散したほうがいい。茶室の扉を開こうと手をかけようとしたその時、自動ではないはずの扉が勝手に開いた。扉の向こうには白銀のスレイプニルが立っていた。 「まだ残っていたのですか。コタマが戻ってから随分時間が経ちましたが――なんですか、この部屋の有り様は」 エルとメルの後ろを覗きこんだマシロは、茶室のあんまりな荒れ模様に顔をしかめた。 「まあいいでしょう、茶室に用はありません。二人とも、すぐにバトルの準備をしなさい」 「ちょ、ちょっと待ってよマシロ姉。いきなりバトルって言われても、ボク達さっきコタマ姉と」 「引き分けたと聞いています。コタマが珍しく難しい顔をしていたので、お二人の戦い方が気になったのです。あと一戦はできるでしょう」 冗談じゃない、とエルは言いたかった。せっかく良いことが続いて今晩は幸せ気分で眠れそうだったのに、『ナイツ・オブ・ラウンド』を相手にしてしまったら必然的に黒星がついてしまう。仮にコタマの時のように作戦が上手くいったとしても、倒壊したビルの中から無傷で出てくるマシロの姿が目に浮かんだ。 「わ、私達ちょっと用事がありまして。ではこれで――」 「待ちなさい」とマシロは横を通り抜けようとする姉妹二人の首根っこを捕まえた。 「離してマシロ姉! やーだー戦いたくない!」 「つれないことを言わないでください。お二人にはアニメに抜擢された祝辞を伝えなければなりません」 「い、いえ、気持ちだけで十分です」 マシロは聞かなかった。 「おめでとうございます。これで戦乙女型は多種多様な神姫の中から頭ひとつ飛び出したわけですね。喜ばしいことです。それはそれとしてコタマから聞きました。コタマの聞き間違いの可能性も否定できませんが――」 たっぷり時間を置いて、まるで別人のように冷たい声で言った。 「クーフランを哀れんだそうではないですか」 「ち、違います! 私達そんなつもりはありません!」 「誤解だよ! コタマ姉が変なこと言ってるだけだってば!」 「言い訳は戦場で聞きます。天使や悪魔と肩を並べるほどの大抜擢ですから、お二人が少々目線を高くしたとしても、私にそれを咎めるつもりはありません」 「咎めるつもり満々だよね!? バトルで八つ当たりする気満々だよね!?」 「謝りますから! 謝りますから勘弁してください!」 「謝罪などする必要はないではありませんか、何も間違ったことはしていないのでしょう。それにしても楽しみですね、主役級となった戦乙女殿との勝負。これから全国に剣を振るう姿が放送される戦乙女殿と予め手合わせできるなど、身に余る光栄ではありませんか」 楽しみと言いつつ、マシロの顔で笑っているのは口元だけだった。深いエメラルド色の瞳は遠くの別のものを見ていた。暴れるエルとメルに殺気のようなものを飛ばして静かにさせて、二人をステージまで引きずっていった。尻で床を磨きながらエルは、これを期に戦乙女が再々販されることを少しだけ願った。 やはりISと似たような感じになるんでしょうか。 メカ、少女、スタッフまで同じとのことで。 ううむ。 15cm程度の死闘トップへ
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アイドルは神姫を救う? 前編 あの試合から1ヶ月がたった。恒一はいずると話すことが少なくなり、毎日のように研究所に通っていた。 (恒一、シュートレイがやられたダメージが大きいのが相当ショックだったんだろう…) いずるは彼の姿を見て心配になっていた。 あの試合の後、シュートレイは集中治療室に運ばれた。一命を取り留めたものの、彼女の精神的ダメージは思ったよりも深刻だった。あれ以来、虚ろな状態で何も反応を見せなくなってしまったのだ。おそらく自分が破壊されるイメージが脳裏に焼きついて、トラウマになっているのだろう。日常生活もままならない状態なので、、シュートレイは今もリハビリを続けている。 今日も恒一は小百合の下へ足を運んでいるのだろう。いずるはそんな彼のことを気にかけていた。 「どうしたのいずる、そんなに深刻な顔して」 家に帰ってきたいずるを、ホーリーが出迎えた。彼女もそのことが心配でしょうがないのだ。 「恒一の事だよ、あの事件から急に元気がなくなってね」 「ああ、恒一のことか。それで恒一は今どうしてるの?」 ホーリーの質問に、いずるは少し落ち着いて答えた。 「小百合さんの研究所に通ってシュートレイの看病さ。どうやら回復が遅れてるみたいなんだ」 「シュートレイはもう傷は治ってるんだよね?それなのに、どうして恒一のもとに帰らないの?」 「それは、彼女の心が病んでるからなんだ…」 重々しい言葉を放ついずるを見て、ホーリーは少し寂しそうな顔になった。 「病んでるって、そんなに重病なの?だったらホーリーたちもシュートレイを元気付けてあげないと」 「そうだな、だったらあとでお見舞いにでも行こうか」 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。 『すいません、宅急便です』 どうやら宅急便の人が荷物を届けに来たみたいだ。いずるは玄関に行って荷物をとりに行った。 荷物の送り主はいずるの実家からだった。その中身は米やラーメンなどの食料品や、衣類などの日用品だった。 「母さんの奴、こんなもの送ってくるなんて」 箱の中を一通り出し終わったいずるは、包装に包まれた箱があることに気付いた。 「あれ、こんなものが…」 どう見ても怪しい包装箱を、いずるは恐る恐る開けてみた。 「…これって、神姫か…?」 包装を取り除いた箱に書いてあるのは、『武装神姫』の文字があった。どうやら親は神姫も一緒に送ってきたようだ。 「どうしてうちの親が神姫のことを知ってるんだろう?」 いずるはその中身を開けてみることにした。その中身はアイドルタイプの神姫とその付属パーツ、起動ディスクとクレイドル、そして手紙が入っていた。 「ええと…何々…」 いずるは手紙を読んでみることにした。 『いずるへ、お前も一人では寂しいだろうから、最近はやっている友達ロボットを送る事にした。最初コレを見たときはビックリしたよ。何せ胴体がない生首状態だったんだから。慌てて胴体を買ってきて繋げたよ。でもまだ起動してないから安心して。あと起動に必要なものは出来る限り用意したつもりだから。このロボットがお前の生活に潤いを与えてくれる事を祈ってるからね。あと、年に一回でもいいからうちに帰ってきなさいよ。 母より』 「…」 いずるは暫くの間言葉が出なかった。その後我に帰ると、改めて母が送ってきた神姫を手に取った。 「相変わらず変わってるよなあ、母さんは。よく父さんが止めなかったもんだ」 さっそくいずるはパソコンに神姫を繋ぎ、起動ディスクを入れた。 「起動の仕方は小百合さんから教わってるから大丈夫だ」 いずるはもしものときに再起動できるように小百合から起動のノウハウを教えてもらっていた。そのため、初めての起動でもある程度のことは知っているのだ。 「よし、これで準備OKと…。さっそく起動させるぞ」 起動ボタンをクリックするいずる。すると神姫の目が少しずつ開いていった。 「…起動確認しました。始めまして、あなたがわたしのオーナーですね」 起動成功。続いていずるはオーナー認識のための手続きを始めた。 「そう、私は都村いずる。君のオーナーだ」 神姫はにこっと笑い、いずるのことをオーナーと認識した。 「それでは、わたしに名前を付けてください。あなたのお気に入りの名前を付けてくださいね」 いずるは悩んだ。名前を決めていなかったのだ。 「そうだな…、どうしようか…」 ホーリーの時は思いつきでつけたのでそんなに悩む事はなかったのだが、今回は状況が違う。いずるは悩みながら名前を考えた。 「…よし、きみの名前はミルキーだ」 いずるは彼女の名前を「ミルキー」と名づけた。かわいらしいと思ったからだ。 「ミルキーですね。登録しました。始めまして、わたしの名前はミルキーです。よろしくおねがいしますね」 やっと登録が終わった。これで彼女もいずるのパートナーになったのだ。 「ねえいずる~、もう入っていい?」 隣の部屋からホーリーの声が聞こえてくる。もう痺れを切らしているのだ。 「もういいよ。いま登録が終わったところだ」 登録終了を聞いたホーリーは喜んで部屋に入ってきた。 「ホーリーにも妹ができたんだね!やった~!!」 大はしゃぎするホーリー。それを見ていたいずるはホーリーに注意した。 「お前はこれからお姉さんになるんだから、見本になるようなことをしないとダメじゃないか。ほら、ミルキーが笑ってるぞ」 いずるが指差した先には、くすくすと笑うミルキーの姿があった。 「あ、ごめんね。つい嬉しくなっちゃって、こんなことしちゃった」 「いいえ、こんなに喜んでくれて、わたしも嬉しいです。これからもよろしくお願いします、ホーリーお姉さん」 ぺこりとお辞儀をするミルキー。意外と礼儀正しいのかもしれない。 「オーナーさんもよろしくお願いしますね」 「いずるでいいよ、ミルキー」 「では、改めてお願いします、いずるさん」 ミルキーはにっこりと微笑んだ。 それからというもの、いずるはミルキーの育成に全力を注ぎ込んだ。ホーリーも一緒にミルキーのお姉さんになるように努めた。 「ええと、これはヒーリングの効果があるんですね」 「ああ、これは回復効果がある能力だな。これで相手の神姫の精神的ダメージを回復できる、と説明に書いてあるな」 「あと、こちらの本のページにはアロマテラピーと書いてありますが、これはどのような効果があるのですか?」 ミルキーは順調に見たもの、聞いたものを吸収し、自分の知識や経験にプラスしていく。そのスピードはいずるも驚くほどだった。 「すごいね、ミルキーは。どんな知識も自分の物にしちゃうんだもん。ホーリーもそんな能力があったらいいのに」 うらやましがるホーリー。しかしミルキーはそんな彼女に励ましの言葉を送る。 「ホーリーお姉さんもいいところがあるじゃないですか。わたしにはできないことがいっぱいありますし」 「でも起動してそんなに経ってないのに、こんなに覚えちゃうんだからすごいよね。このまま行けばアイドルじゃなくてナースになったりして」 三人がお世辞を言い合っているとき、玄関のチャイムが鳴り響いた。 「お客さまですね」 「そうだな、ちょっと見てくるからここで待ってるんだぞ」 いずるは玄関に来て客を迎え入れた。 「やあいずる、久しぶりだな」 客は恒一だった。心なしか少し元気がないように見える。 「恒一、お前大丈夫か?」 「ああ、今のところはな…。今日は少しばかり気分転換したいと思ってね」 いずるは恒一を部屋へ招きいれた。中に入った恒一は見覚えのない神姫=ミルキーに注目した。 「お前、新しい神姫を購入したのか?」 「まあね、話せば長くなるけど…」 いずるはミルキーを手に乗せて、恒一に見せた。 「始めまして恒一さん、わたしはミルキーといいます」 「は、始めまして…俺は木野恒一。よろしく」 なぜか照れる恒一。彼女のかわいらしさにドキドキしているのかも知れない。 「ところで恒一、シュートレイの様子はどうなんだ?」 いずるがシュートレイのことを話題に持ち込むと、恒一の表情が曇った。 「それが…」 どうやらシュートレイは前と変わらない様子らしい。 「そうだ、まだ時間があるからシュートレイのお見舞いに行ってみようか?」 いずるの提案にホーリーとミルキーは賛成した。 「いこう、シュートレイのことが心配だし」 「わたしもシュートレイさんに一目会ってみたいです」 「よし、決まりだな。みんなでシュートレイのお見舞いに行こう」 元気のない恒一を尻目に、いずる達は神姫研究所へ行く事にしたのだった。 電車に揺られて数十分、いずるたちは町外れにある神姫研究所にやってきた。この隣には、神姫たちのメンテナンスや療養をする『病院』が隣接している。シュートレイは神姫研究所付属の病院に入院しているのだ。 「知らなかったな~、ここの隣に病院があるなんて」 「私もここの隣に新規の病院があるなんて、つい最近まで知らなかったんだ。何せ、規模が小さいからね」 さっそく中に入ろうとする一行だが、入り口で誰かに呼び止められた。 「あら、いずる君に恒一君。みんなでシュートレイのお見舞い?」 声の主は小百合だった。彼女も病院に出入りしていたのだ。 「小百合さん、こんにちは。これからシュートレイの様子を見に行こうと思って」 「そう、でも酷なことをいうけど、彼女の回復はかなり遅れてるから、暫くはこのままの状態が続くと思うわ」 少し残念そうに現状を語る小百合。その直後、いずるの肩に座っているミルキーに目がいった。 「あら、この神姫、ニューフェイスね。新しく購入したの?」 「始めまして小百合さん、わたし、ミルキーと申します」 すかさず挨拶するミルキー。それを見た小百合は感心した。 「あらあら、礼儀正しいのね。ところでこの神姫、どうしたの?あなたはあまり神姫のことが好きじゃなかったはずだけど」 「話せば長くなりますが…」 いずるはミルキーがどのように自分のマスターになったのかを説明した。 「あははははっ、そう、そんなことがあったの。さすがいずる君のお母さんだわ。自分の息子に神姫を送るなんて」 「しょうがないですよ、送り返したら何か言われそうですし。それに、もう一人増えても家族が増えるだけですから」 いずるの意外な言葉に、小百合は思わずふふんと鼻笑いした。 「いずる君、最初会ったときとは印象がまるで違うわ。これもホーリー効果、ってことかしら」 ちょっと意地悪げに言う小百合。 「そ、そうですか…」 「そう、それにしてもこのミルキーちゃん、結構賢そうね。やっぱりオーナーに似てるのかしらね」 ミルキーをまじまじと見つめる小百合。 「それで、この子の成長ぶりはどうかしら?上手くいってる?」 「はい、いつも借りてきた医療関係の本などを一生懸命読んでます」 ミルキーの急激な成長振りを説明するいずる。そのとき、急になにかがひらめいた感じになった小百合は、いきなりいずるに話しかけた。 「そうだ、シュートレイに会う前にちょっと研究所に寄ってほしいの」 「研究所って、どうしてですか?」 「いいから、ちょっと説明することがあるのよ」 小百合はいずる達を無理やり研究所に引き込んだ。 「で、何をするつもりですか?」 「さっきミルキーが医療関連の本を読んでたと言ってたわね。もしかしたら彼女に精神医療の知識があるんじゃないかしら」 「でも、読み始めてからまだそんなに時間が経ってませんし、もしあったとしても、治療なんてできるかどうか…」 「まあ、これを見てからでも決めるのは遅くないわ」 小百合は引き出しの奥から小さい箱を取り出した。 「これは…、何ですか?」 「これは精神医療用の『ヒーリングバトン』といってね、神姫や他のロボットの精神を安定させる、いわば『精神安定器具』といったものね」 これを見た恒一はすぐさまバトンの側に近づいた。 「どうしてこれがあるのを黙ってたんだよ?」 「これは普通の神姫では扱えないの。使い方がシビアだから、ある程度医療関係の知識がないと使えないのよ」 ミルキーはバトンが入った箱の近くに近づき、バトンをじっと見つめた。 「いいんですか、わたしがいただいても?」 「それを持つかどうかはあなた次第よ。もしバトンを持つつもりなら、あなたの能力を借してほしいの」 小百合はバトンを取り出した。 「…どういうことなんですか?」 ミルキーの質問に、小百合はこう答えた。 「いずる君から聞いた話だと、あなたはある程度だけど医療関係の知識を身につけてるようね。それに加えてあなたの能力は回復系、つまり癒しの力があるから、相性は抜群なのよ。だからお願い、シュートレイを助けてあげて」 ミルキーは暫く考えてから、答えを出した。 「分かりました、わたしにしかできないことならばやって見ます」 「それじゃあ、これを使えばシュートレイはもとに戻るんだな?」 再び割ってはいる恒一。しかし小百合は少し心配そうに答えた。 「恒一君、たとえ元に戻らないとしても、後悔しないことを約束できる?この作業はとてもシビアで、たとえ直ったとしても、完全に戻る確率は5割にも満たないわ。最悪の場合、リセットしなければいけないかもしれない。それでも彼女を救う気持ちはある?」 小百合の質問に、恒一は静かに、しっかりと答えを出した。 「ああ、よろしく頼むよ」 つづく もどる 第十一話へGO
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戻る トップへ 私の名前は田端 神楽。読書と妄想が趣味のピッチピチ高校一年生。 実家は山形の奥の方で、今は実家を離れ一人でアパートに住んでいる。 築何年かとか家賃とかは忘れた。全部親がやってくれたから。感謝。 ただ一つ覚えているのは、一人暮らしに十分な広さを持つ部屋だと言う事。 私の部屋が二階にある事と端から二番目だと言う事。 そして、隣の部屋の住人は同じ高校の生徒だと言う事。 そして、彼女とは読書仲間である事。 最後に、その彼女が熱を出して寝込んでいると言う事。 もひとつ最後に、今私が居るのはその彼女の部屋の扉の前と言う事。 トントン。 「田端か」 ノックとほぼ同時。嘘。少しして扉が開かれた。 この部屋の住人、戸坂 加奈美は容姿端麗素行良法、ないすばでいの美少女だ。 特徴は腰まで届く黒髪に、大きな胸。 その姿は一度見てしまえば忘れられない、そんな美味しそうなおんなのこであるはずなのだが。 「加奈美、暫く見ないうちに男みたいに」 「何ボケてんだ。とっとと入れよ」 何故かそこにいたのは短い髪をぼさぼさにした眼つきの悪い不良少年、越裏宗太だった。 何故彼がここにいるのか。もしや加奈美とあーんなことやこーんなことをしていたというのか。 「いらっしゃい、神楽……横になったままで御免なさいね」 古本屋でも開けそうな本の山。 本の山に埋もれるように加奈美は布団の中で横たわっていた。 「気にしない」 台所に立ちつくす宗太を横目に加奈美に近づく。 といっても三歩もあるけば加奈美の枕元に到着だ。 「具合は」 「ちょっと熱があるくらい……そんなに辛くはないわ」 そうは言うがな、大佐。 加奈美の頬は赤く染まり、瞳は潤んでいる。 そしてそのしなやかな肢体は布団に隠れて分らないが、襟元を見ればピンク色の寝巻を纏っているのが分る。 規則正しく上下する胸の膨らみが寝巻の襟もとから垣間見えてしまって、私の精神は臨界点を突破しそうな勢いだ。 「熱は37度弱……まぁ何時ものと同じだ」 この朴念仁め、この好機に何を悠長な事を抜かしているか。 こういう場合は部屋を訪ねて直ぐにいただきマンモス、ごちそうさマンマするのがフツーだろうに。 欲をいえば一通り終わって一息ついた頃に私が訪ねて二人であたふたして欲しい。 そうすれば私も長年の夢だった「お邪魔虫はとっとと出て行く」とか「お楽しみの途中だった」とか言えるのに。 と、そこまで考えてある事に気付いた。 「……この時期に珍しい」 加奈美は生まれつき病弱だ。出会ったのは今年だから詳しくは知らないけども。 それでも、この半年間の間に4回は寝込んでいる。 だけどそれにもある程度の法則がある。 「寒暖の差は無い……」 加奈美は季節の変わり目に決まって体調を崩す。 それは短い付き合いなれど完全に完璧に究極に熟知している。 それが、こんな気候が安定して冬にゆっくり向かう季節に熱を出すなんて、原因は激しい運動で汗たっぷりかいたとしか思いつかない。 「ええと……その……」 「まぁ、アレが原因だろうなぁ」 この反応は一体なんだ。 加奈美は恥ずかしそうに口ごもり、宗太は苦笑交じりに呟いている。 これはやはりアレか。ついに幼馴染という鎖から解き放たれたとみてよろしいですね。 「昨日な、こいつ俺と」 「宗太、あんまり詳しく話さないでよ……」 これは完全完璧究極にアレしかないじゃないですか。 同意と見てよろしいですね? 「神姫バトルしてよぉ、勝ちやがったんだよ。それで嬉しさの余りぴょんぴょん飛び跳ねてよぉ」 「……はしゃぎすぎちゃったみたい」 つまんねー。 ていうか加奈美さん、貴女子供ですか、二つの意味で。 期待して損した。ていうかこの二人がそう簡単に一線越える訳無いか。 「んじゃ、後は任せて良いか?」 このウスラトンカチめ、幼馴染の部屋に来て何もしないで帰るとは何事か。 「ええ、悪いわね宗太。今日もバイトあるんでしょう?」 「今日は休日だし、少しくらい遅れても構わねぇさ。じゃ、速く直せよ」 ちっ。加奈美の寂しそうな視線やら言葉に気付かないとはとんだフラグクラッシャーよ。 これだから男は嫌だ嫌だ。 「加奈美、汗は」 とりあえず、今は加奈美と密室に二人っきりという事象を受け入れ喜ぼう。 「ええ、少し……」 そうは言うがな、大佐。 布団越しから見てもピンクの寝巻は大分汗を吸っているように見える。 ここはやはりアレを、伝家の宝刀アレをやるべきだ。 と、頭の中で鼻血を噴き出していたその時だ。 ピピピピピピピ―――。 とっても機械的なアラームが鳴り響いたのは。 「ああ、ごめんなさいね」 身体を起こそうとしたので手を貸した。 その際、加奈美の体臭が鼻孔を擽った。やば、鼻血でそう。 そんな事とは露知らず、加奈美は本の山を枕もと周辺だけ崩した。 すると、何と言う事だろう。そこにはどうみても武装神姫が埋もれていたのだ。 「おはよう、シルフィ」 「おはよう、主」 その神姫は、クレイドルから颯爽と起き上がると加奈美に向かってそう言った。 「お客人か」 エウクランテ型と見えるその神姫は私を認めるとクレイドルから降りて、私の前に歩み出た。 「私はシルフィ。見ての通り、加奈美の武装神姫だ」 「田端神楽。加奈美のトモダチ」 「神楽殿、とお呼びしてよろしいか?」 「シルフィと呼んでも」 「ああ、私は構わない。では、今後ともよろしく。神楽殿」 「こちらこそ」 そういえば、加奈美から神姫を買ったと言うメールが来ていた。 このシルフィが件の神姫か。 加奈美に似て、とても美味しそうな神姫だ。 「二人とも、仲良くなれそうね」 加奈美が床に潜り込みながら言った。 そういえば加奈美は病人だった。 私はその看病をしにここに来ていたのだった。 「……主、具合が悪いのか?」 「ええ、昨日の夜、シルフィが寝た後に熱が出ちゃってね」 「主よ……何故私を起こさなかったのだ? 例え神姫の身と言えど、手伝いくらいは出来た筈だ」 「シルフィが気持ちよさそうに寝ていたものだから、起こしたら悪いと思ったの」 「そんなもの、主の事とは比べるまでも無いではないか」 「そう? これくらいならいつもの事だから、シルフィを起こすまでも無いと思ったんだけど……」 「そこまで」 この二人、仲が良いのは良く分かった。 だけど、ほっとくと何時までもエンドレスしそうだから早めにきりあげるとしよう。 そして、めくるめく夢のお仕事を私にやらせて頂こうか。 「加奈美の汗、拭く」 「お願いしていいかしら?」 加奈美の言葉に、無言で頷いて答える。 「私も、何か手伝おう」 シルフィが力強く言った。なるほど、この子はかなり責任感が強い娘のようだ。 しかし、神姫に出来る事は限りがある。 確かにそれだけちっちゃければあーんな事やこーんな事が自由自在だろう。 だけど、今の様な場面ではそれはデメリットにしかなりえない。 加奈美もそれを察してか、少し気まずそうな視線を泳がしている。 「案ずるな。私にはヘンデルがある」 そう胸を張りながらシルフィは言い放ち、部屋の片隅に鎮座する外骨格を纏った。 なるほど、それならまぁまぁ邪魔にはならない。 加奈美もそれを考えてか、私に視線を向けてくる。 そんな熱い視線を向けられると、色んなところがオーバーロードしそうだ。 「問題無い」 シルフィと、そして暗に加奈美に応えて軽く頷いて見せる。 ああ、加奈美が嬉しそうに笑っている。やば、色々爆発しそう。 「タオルを」 「了解した」 シルフィには汗を拭く為のタオルを頼むとして、私はぬるま湯を用意するとしよう。 台所にある薬缶に水を入れ、火にかける。 熱すぎてもぬるすぎてもいけない。万が一熱湯になれば加奈美の柔肌を傷つける事になるのだから。 「神楽殿、タオルはこれでよろしいか」 タオルを抱えたシルフィが戻ってきた。 神姫にしては大きく、人間からしたら大した大きさでは無いハンドタオルだ。 「ぐっ」 親指を立ててシルフィを肯定する。 それと同時にコンロの火を止めて、中を覗く。 温度は多分、50度くらいか。 このままでは少し熱すぎるだろう。 「洗面器を」 「了解した」 お湯を張る洗面器はシルフィに頼んだ。 だけど、それすらも時間稼ぎにはならないだろう。 薬缶の中を再び覗いてみたが、いい温度になるにはまだまだ時間がかかりそうだ。 「神楽殿、洗面器はこれで、よろしいか」 お風呂場の方からよたよたしながらシルフィがやってきた。 ヘンデルを介してもなお大きな洗面器を抱えているシルフィは、なんだかとっても微笑ましい。 「もらう」 それを直に受け取り、キッチンのテーブルの上に置く。 置いた洗面器の中に、薬缶で熱したお湯を移し変える。 洗面器の中のお湯はもうもうと湯気を噴き出している。 控えめに見ても、50度以上ある。 ……おかしいな。 「どうされた、神楽殿」 「お湯が冷めるまで待つ」 「了解した」 さて、ここでお湯に水入れて冷ましても良いけど、それはそれで面倒くさい。 ここは、ここぞとばかりに加奈美との時間を満喫しよう。 「何か飲みたいものは」 「そうね……温かい紅茶が飲みたいわ」 「分かった」 加奈美の飲みたそうなものは、大抵頭に入っていて、我が家にストックがある。 加奈美の部屋から私の部屋まで五秒もかからない。 速攻で取ってこれる。 「ああ、それとウィンとレミンにも会いたいわ」 「……分かった」 加奈美の声を背に受けて、私は加奈美の部屋を飛び出した。 外に出て一歩二歩三歩で私の部屋。 加奈美が待っている。一刻でも時間が惜しい。 この前通販で取り寄せた茶葉があった筈だ。 とりあえず、食器棚辺りからひっくり返してみよう。 「あの……司令官」 食器棚の引き出しを引っ張りだし、ひっくり返した時。 不意に背後あたりから声がかかった。 普通の人間なら聞き逃してしまいそうな声、私も危うく聞き逃してしまいそうな声。 振り返れば、そこには気弱そうに佇むヴォッフェバニーの姿が、私の第一神姫ウィンの姿が、茶葉の缶の隣に有った。 「良く分かった」 自分で言うのも何だが、私は色々なモノを無くす。 その度に部屋中引っ掻き回す事になる。 そんな折、ウィンは一番速く探し物を見つけだす。 場合によっては探し始める前に見つけ出す。今の様に。 「自分、ウサギですから……」 兎型のウィンは当然集音能力が高い。一戸隣の加奈美の部屋での会話も筒抜けだろう。 「……行く」 ジョルジの缶を開け、中の香りを一息吸い込む。 ああ、加奈美の喜ぶ顔が目に浮かぶ。 「あ、はい。お気を付けて」 相も変わらず気弱そうにウィンは言った。 さっきの会話を聞いていたならば分かることなのに。 謙虚さもここまで来るとダメダメだ。 「ウィンも」 「え? ……あ、はい!? わかりました!? 」 ウィンを頭の上に乗せて、加奈美の元へと急ぐ。 「あれ、司令官と隊長、お出かけッスか? 」 私の布団の上、雑誌を読みながらレミンが言った。 何時もなら構ってやる所だけど、今はその暇すらも惜しい。 「留守番」 そう言い残し、私は駆け出した。 「自分も行きたいッス!」 レミンがそう叫ぶころには、私は加奈美の部屋に舞い戻っていた。 「おかえり、神楽」 そんな私を出迎えてくれる加奈美の声。 甘くて、優しいその声の主に思わず抱き着きたくなるけど相手は病人、自重しよう。 「それにウィン、久しぶり」 その言葉を受けたウィンはさぞかし嬉しそうな顔をしているのだろう。 頭の上に居るウィンの表情を窺い知ることはできないが、余裕で分る。 少し妬ける。 「神楽殿は素早いのだな」 どうやってそこまで登ったのか、シルフィは台所のテーブルの上に居た。 「挨拶」 ジョルジの詰まった缶を台所に置き、頭の上に声を掛ける。 「シルフィさん……ですね。私はウィン、見ての通り司令官の神姫です……よろしく」 少し声が小さいけど、これだけ言えれば充分だろう 「こちらこそ、よろしくウィン殿。時に、何故私の名を?」 「私、ウサギ型だけに耳が良いんです……御隣でずっと聞いてましたから……」 「そうか、そうなのか……少し、気恥しいな」 「あぅ……ごめんなさい」 「いや、気にしないで欲しい」 ……内向的なウィンがここまで会話するとは、例え相手が神姫で合っても珍しい。 趣味の会うパーシでさえここまで会話は弾まないのに。 まぁ、パーシの場合の問題点はウィンにあるとは思わないが。 「シルフィは誰とでも仲良くなれるのね。嬉しいわ」 加奈美が嬉しいのなら私も嬉しい。 もとい、シルフィにはそういう人づき合いの才能があるのではないだろうか。 流石は加奈美の武装神姫だ。 「あぁ、そうだ。神楽殿」 照れくさそうにシルフィが言った。 「お湯は良い加減だと思うのだが、どうだろう」 シルフィに促されるまま、洗面器を覗いてみれば、成程。湯気の量からしてお湯の温度はそれほど高くなさそうだ。 これなら加奈美の汗ふきフィーバータイムにも使えるだろう。 だがしかし、私は加奈美のリクエストである紅茶も淹れなければならない。 加奈美は平然と会話をしていて忘れそうになるが、立派な病人だ。 熱もあるし、汗もかいている。早急に着替えさせなければまずい。 だが、加奈美自身が紅茶を飲みたいとも言っている。 病は気からと言うし、この紅茶で快復に向かう可能性も十分ある。 しかし、紅茶は何かと手間がかかるモノだ。 ただティーポッドに葉とお湯を入れて終わり、という訳では無い。 一つ言える事は、紅茶の用意をすればこの洗面器の中のお湯は確実に水になると言う事だ。 こうなったら最後の手段だ。 「ウィン、シルフィと紅茶を」 加奈美の紅茶を私自身の手で淹れられないのは少々口惜しいが、加奈美の柔肌を直に触れる方が上だ。 「あ……はい、がんばってみます」 「紅茶か……淹れた事が無いのだが、大丈夫だろうか」 「大丈夫……簡単だから」 あとは若い二人に任せて、私は加奈美とのキャッキャウフフに専念しよう。 「加奈美。汗、拭く」 最初にそう宣言してから行動を開始する。 まずは洗面器とハンドタオル。タオルは腕に引っ掛けて、洗面器を両手でしっかり持つ。 「初めに……お湯を沸かすついでにカップとポットを温めます」 「了解した」 シルフィとウィンは着々と準備を始めている。 これなら、完全にお任せして良さそうだ。 私は頑張る二人を尻目に加奈美の枕元に向かう。途中、足元に散らばる本を踏まないよう注意しながら。 「寝巻は」 次に加奈美の着替えの用意だ。 加奈美自身の汗を拭いても、汗を吸った衣類をまた着ては何の意味もない。 「何時ものでお願い」 加奈美の返答に頷く事で返し、質素なタンスの引き出しを開ける。 そこに拡がっているのは、正に桃源郷。 加奈美が普段、身につけているであろう寝巻が山と詰め込まれているのだから。 この場に誰も居なければ、目の前の桃源郷に頭から突っ込む所だけど、そんな事すらも今は後回しだ。 加奈美のお気に入り、黄色い厚手の寝巻を取り出して引き出しを閉める。 次に、タンスの一番下の引き出しを開ける。 そこには加奈美の下着が詰まっている。 華美な訳では無い。それでも、どこか優雅な雰囲気を感じる下着の山。 中から無造作に一着、取りだす。 その時、手が震えていたのは気のせいだろう。 その時、鼻血が出そうだったのも気のせいだろう。 心の準備と着替えの準備を終えた私は、加奈美へと向き直る。 視線の端にシルフィとウィンの姿が写りこんだ。 ヘンデルを装着し、お湯を沸かすシルフィ。 小さな体を駆使して、カップを用意するウィン。 彼女達は、彼女達なりに仕事をこなしている。 私も、仕事をこなすとしよう。 「脱げる?」 内心のドキドキを隠しながら、平静を装って加奈美に問う。 「ええ、それくらいなら大丈夫よ」 加奈美は熱っぽい顔で、そう言った。 加奈美がそう言うのなら、私はただ見ているしかない。 私がそんな事を考えている間に、加奈美は寝巻のボタンを一つ、また一つを外し始めた。 加奈美が指を動かす度に、その陶器のように白い肌が露になる。 首、胸、お腹、おへそ。 そして、加奈美の上半身全てが露になった。 熱のせいか、それを隠そうとも恥ずがしがろうともしない加奈美のそれを見ない様、ハンドタオルにぬるま湯を染み込ませる。 そして、余分な水分を絞りとって形を綺麗に整える。 音も立てずに加奈美の背後に移動し、呼吸を整える。 何と無しに、台所に視線を向ける。 「それじゃあ……ポッドに茶葉を入れますから、直ぐにお湯を入れてください」 「了解した」 真剣に紅茶を淹れようとする二人。 二人とも、加奈美の為に真剣に頑張っている。 それなのに、この私が煩悩ごときに屈するわけにはいかない。 「背中、から」 声は震えていないだろうか。 「ええ、よろしくね」 指は震えていないだろうか。 「……ん」 そうして、加奈美の背中に、加奈美の皮膚に、加奈美自身に私は触れた。 例えタオル越しでも解る加奈美の気配。 今までこんな近くに居るのに、初めて気付いた加奈美のにおい。 今まで見ようしなかった、加奈美の火照った横顔。 それらが全てが、私の五感を侵略する。 それらは全ては、私の正気を蹂躙する。 ……待て待て待て待て待て。 今さっき煩悩如きに屈しないと誓ったじゃないか私。 加奈美に触れただけでこんな事じゃあダメだろう私。 こうなったら素数だ、素数を数えるんだ。 2,3,5,7,9,11,13,17,19,23,29……。 …………9は素数じゃない! 「ありがとう、神楽」 加奈美の一声で、私の意識は再び覚醒した。 煩悩に打ち勝つための無の境地作戦は、暴走の危険性こそ無いけどやってる最中の事を何も覚えていないのが欠点だ。 最も、加奈美に感謝されるだけで私の心の中は薔薇色だけど。 「……気にしない」 精神を再起動しながらも、私は何とか発声出来た。 まともに発音出来たのを褒めてやりたい。よしよし。 「……布団」 布団の上に上品に座る加奈美の膝まで、かけ布団をかける。 そこまでやって私はようやく落ち着いた。 ぼやける頭を奮い立たせて加奈美の汗をたっぷり吸ったハンドタオルを洗面器に沈める。 「あ……司令官、準備……出来ました」 「……そう」 か細い声でウィンが言った。 キッチンを見れば、お盆にティーポッドとティーカップを乗せる二人が見えた。 そして、シルフィはその盆を持ったまま、椅子やごみ箱を踏み台にしつ器用に床へと着地した。 「10点」 その華麗な体捌きに、私は10点満点の賛美を。 「……ヒヤヒヤしました」 ウィンは心底安心し、胸を撫で下ろした。 加奈美は加奈美で、その様子を楽しそうに眺めている。 とっても微笑ましい光景だが、加奈美は自分が病人だという事をもう少し自覚して欲しい。 そんな事を考えている間にも、シルフィはサクサクと歩みを進めていく。 彼女の姿が力強く見えるのは、ただ単にヘンデルを纏っているからではないだろう。 私は洗面器の縁をなでなでしながら、シルフィの勇姿を見学する。 真一文字に引き締められた唇、真剣な眼差し。 まるで戦士のような気迫を感じさせる半面、とてもほほえましいものも感じる。 そう、それはまるで親の手伝いをして、誉められるのを心待ちにする子供の様だ。 それはまるで、純粋な子供の純粋な善意の様だ。 それはまさに、純粋な騎士の純粋な忠誠の様だ。 どこまでも真っすぐで、どこまでも真っすぐに。 ただ主に喜んでほしい、ただ主に褒めてほしい。 それだけを望み、そのために頑張る。 だからその姿が、そのシルフィの姿が微笑ましく思うのかもしれない。 「シルフィ、もう少しよ」 加奈美の声に、シルフィの表情が綻んだ。 ああ、なんて心癒される空間だろうか。 「主よ……お待たせした……」 シルフィが加奈美の手前、残り数歩と言ったところか。 丁度私が二人の真ん中に居るような位置で、それは起きてしまった。 シルフィの気が緩んだのか、それとも足元に何かがあったのかは分らない。 ただ一つ確かな事は、シルフィが熱々の紅茶が乗っている盆を持ったまま、転んだという事。 その瞬間、シルフィの表情が一変し、絶望一色に染まった。 それと同時、加奈美の顔色も変った。 それはシルフィが失敗した自分を責めると見抜いているから。それを、見たくないからだろう。 「うわぁ!」 キッチンでウィンの悲鳴が響いた。 それを聞いた瞬間、私のスイッチが入った。 手元のハンドタオルを取り、立て膝の要領で一歩前に踏み出す。 そして、すぐさま身体を左に半転。 すると丁度、シルフィの手から離れた盆が私目掛けて飛んでくる体勢になる。 盆の上にあるのはティーポッドとティーカップ。その中で最も気をつけなくてはならないのはティーポッドだ。 中にはほぼ熱湯と言っても差支えない紅茶が詰まっているだろうそれを、万が一加奈美が被れば素で火傷だ。 だから、第一に私は持ったハンドタオルでティーポッドを包み込む。 それと同時にタオル越しに口を右手の人差指で、同じく親指で蓋を押える。 出口と入口を押さえてしまえば、紅茶は外に漏れる事は無い。ただ、口を押さえた指が凄く熱いけどそんな事は言ってられない。 次はカップだ。熱湯は入っていないとは言え、割れたりしたら破片が飛び散って、それで加奈美が怪我をするかもしれない。 気を利かせてくれたシルフィは、盆の上に私と加奈美の分のカップを乗せてくれている。 その心遣いに感謝しながら、左手の親指と人差し指で二つのカップを挟み取る。 ティーポットに比べれば、難易度は月とスッポンだ。 最後に、飛んできた盆をお腹で受け止めて膝で挟んで終了だ。 「……シルフィ、お疲れ」 「え……? あ……か、神楽殿!?」 シルフィに労いの言葉をかけてから、盆を床に降ろす。 その上にカップとポットを置いて、タオルを洗面器に戻す。 一応、カップに罅とか入ってないか確かめて、紅茶を注ぐ。 ……幾らしたっけなぁ。 「飲む」 「ええ、頂くわ」 加奈美が凄い優雅で華麗な動作で紅茶を一口含んだ。 何だろう。この胸のざわめきは……恋? 「美味しいわ、シルフィ」 まるで天女と女神と大地母神を足して3で割って10かけたような笑顔で加奈美は言った。 もう色々とオーバーヒート起こしてオーバーフリーズもしてしまいそうだ。 「あ、主……私は……」 シルフィがまるで叱られる子供のように口を開く。 なんだかそっち側の趣味に目覚めてしまいそうなくらい可愛いなぁ。 「シルフィ、ありがとう」 そんな眩しい笑顔でそんな事言われたら、私だったら卒倒するね。 「主……いや、当然のことをしたまでだ」 気丈にシルフィはそう言った。 けど、私からは見えた。シルフィが涙を拭うのを。 「加奈美、お大事に」 「ええ、ありがとうね。神楽」 あれから少し。 私は紅茶を一杯頂いたし、加奈美の具合も良くなって来たので帰る事にしたのだった。 「……お大事に」 私の頭の上でウィンが呟いた。 一番近い私でやっと聞こえる程度の声なのに、加奈美はそれを掬い上げる。 「ありがとう、ウィン。紅茶、美味しかったわ」 その言葉に、ウィンはえへへ、と嬉しそうに笑った。 「神楽殿……」 加奈美の肩の上でシルフィが何か言いたそうに呟いた。 彼女は起動間も無い武装神姫だ。こういう時に何と言っていいのか分からないのだろう。それは私に取っても同じだ。 ただ一つだけ違うとすれば、私は何をすれば良いのかが分かる事くらい。 「シルフィはいい子」 それが正解かどうかは分からない。 だけど私は、シルフィの頭を撫でて褒めてあげる事を選択した。 「……神楽殿、ウィン。今日はありがとう」 シルフィと加奈美の笑顔に見送られ、私は徒歩三歩の自宅へと帰還した。 「ふぅ……」 間取りは同じ、ただそこにいる人間だけが違う部屋。 隣の加奈美の部屋が本で溢れている様に、逆隣のあの人の部屋が神姫で溢れている様に、私の部屋は銃に囲まれている。 ウィンを頭に乗せたまま、布団に向かって身体を倒す。 「ぐぇ!」 布団の上でごろごろしていたレミンを押し潰し、私は布団にの上、俯せに突っ伏した。 ウィンは私が倒れる寸前に飛び降りて、私の顔を覗き込んでいる。 「司令官……音、拾いますか?」 横目で加奈美の部屋を捉えながらウィンが言った。 何時もなら、即座に肯定している所だけど。 「必要無い」 「……いいんですか?」 ウィンが怪訝そうに言った。 恐らく、ウィン自身が隣の様子が気になるのだろう。 「第四級警戒体制、異常発生時報告」 「了解です」 即座に敬礼をしたウィンは壁に寄り掛かり目を閉じる。 きっと壁の向こう側では、加奈美とシルフィが話をしている。 シルフィは多分、加奈美に謝っているだろう。 紅茶を溢しそうになった事を、役に立てなかった事を。 それを悔いるだろう。もしかしたら泣いているかもしれない。 だけど、加奈美はこう言うだろう。 シルフィは私の為にやってくれた。それだけで充分。結果なんて関係無い、と。 だから、私は聞く必要が無い。 「司令官、いきなり何するッスか!」 お腹の下からレミンが這い出て来るなり文句を言う。 だけど、私はそれに応えない。 その代わり、周りに散らばる拳銃の中からマウザーミリタリーを取り上げた。 グリップを握り、マガジンを詰め、セーフティを外し、トリガーを引く。 「ばん」 窓に向けられたマウザーが、がちゃりという虚しい音だけを撃ち出した。 右手の親指が、少し疼いた。 「……司令官」 不意に、ウィンが口を開いた。少しだけ、焦りの様なものが見える。 「加奈美に電話がかかってきました」 「相手は」 「小さくて良く分かりませんが……男性かと」 その単語に、身体が一瞬強張る。 馬鹿幼馴染にしても、今はバイト中でそんな余裕は無い。 「……あ」 とか何とか考える前に、間の抜けた声でウィンが言った。 「どうしたの」 「えーと……その……」 少しおどおどし、気まずそうにするウィン。 そして、意を決したようにこう言った。 「加奈美の……お爺様からでした」 私は近くにあったBB弾を手早くマガジンに装弾し、銃口をウィンに向けた。 「し、司令官!?」 「何事ッスか!?」 「誤情報は銃殺」 私の部屋に、乾いた発射音が木霊した。 トップへ 進む -
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6th RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~1/3』 携帯電話には携帯ショップがあるように、武装神姫にも神姫専門ショップが存在する。 神姫センターと呼ばれる店舗だ。 そこでは神姫やパーツの購入、検査、修理を行うことができ、またバトル用の筐体を初めとして様々な設備 (神姫 “で” 遊ぶためだけでなく、神姫 “が” 遊ぶためのものまである) が揃っている――らしい。 竹さん曰く、とにかく神姫のことで困ったらとりあえずここに立ち寄ればいいのだとか。 しかし、俺が神姫を購入する店としてボロアパートから比較的近いヨドマルカメラを選んだように、近所に都合よく神姫センターがある、なんてことはなかった。 (ヨドマルを選んだ理由は他に、姫乃と同じ場所で買いたかったとか、ポイントが貯まるとかそんなものだ) いくら神姫がそこそこの人気を誇るとはいえ、携帯ショップのようにどの町にも神姫センターがあるのかといえば当然そんなことはなく、主に新幹線が停車する主要な駅の側くらいにしかない。 だから、ボロアパートから徒歩十分の工大前駅、そこから電車で二駅のところに神姫センターがあるのはまだ良いほうだと言える。 ジャスコのような大型店舗がどーんと聳える代わりにゲームセンターもないような田舎だと、神姫バトルは専ら室内の手作りスペースで行われ、強者になると例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中姫乃のスカートの中 「ちょっ!? やめてよ!」 だろうとお構いなし、熱く燃えたぎるハートはお巡りさんに声をかけられるまで冷めることはないという。 よいこのみんな、こんなオトナになっちゃダメだゾ☆ さて。 勿論俺達が (主に姫乃が) 野外プレイなどという破廉恥な真似をするはずもなく、今は竹さん、または鉄ちゃんこと竹櫛鉄子さんの案内のもと、神姫センターへ向かっている最中だ。 用事はもちろん、神姫バトル。 俺の眉間に穴を空けたニーキにギャフンと言わせるための、復讐の輪舞曲。 俺に代わって悪魔に鉄槌を下す戦乙女は―― 「ふふっ、神姫センターってどんなところなんでしょうね! 楽しみですね、マスター!」 胸ポケットから顔を覗かせたエルは今朝からずっとこの調子で、大好きなアニメの劇場版を観に行く子供のようにはしゃぎっぱなしだ。 もうちょっと、ほんの少しでいいから緊張感というものを持ってほしい。 それに、せいぜい 15cm 程度とはいえその体の中にギッシリと機械部品を詰め込んだ神姫がポケットの中で動くと服が引っ張られて首が痛いのに、ご機嫌斜め上のエルはそんなことはお構いなし。 首も痛いが、周りの乗客の目も痛い。 「あーわかったわかった。 もうすぐ電車降りるからせめてそれまで静かにしててくれ (ひそひそ)」 「了解です。 ところで我がマスター (ひそひそ)」 「どうした我が戦乙女よ (ひそひそ)」 「私、マスターはてっきり “そういうこと” に無頓着な人だと思ってました (ひそひそ)」 「なんだよ、そういうことって (ひそひそ)」 「ここからだとよく見えるんですが、ちゃんと鼻毛の処理をしてるんですね (ひそひそ)」 「余計なお世話だ!」 「背比うっさい」 「はい……怒られたじゃねぇか (ひそひそ)」 「それはそうですよ。 電車の中ではお静かに (ひそひそ)」 「てめっ! こ、こほん…………後で覚えてろよ、全力でくすぐり倒してやる (ひそひそ)」 ヨドマルカメラの売り子として起動されたエルはほとんど店の外に出たことがなかったらしく、神姫春闘事件後の花見やボロアパートへ帰ってからはずっと、元から丸い目をさらに丸くして輝かせていた。 見るものすべてが珍しい。 目に映るものすべてが面白い。 その日の夜は唯一の所持品だったクレイドルも使わず 「今日はマスターと一緒に寝ます。 いいですよね」 と俺の枕元に横になり、タオルハンカチをかけて眠っていた。 そんなんで眠れるのか心配だったのだが、その一日はエルにとっては世界が変わるような一日だったからなのか、ベッドから落ちることもなく、ぐっすりとバッテリーが枯渇するまで眠っていた。 (一日動きまわった上にデータ整理にかなりの電力を食ったらしく、素のアルトレーネ型の抑揚のない声が耳元で 『バッテリー容量が不足しています。 すぐに本体をクレイドルに寝かせて充電して下さい』 と言った時は心臓が止まるかと思った) そういったわけでエルは今日が神姫センターデビューデイとなるのだが、このテンションの高さの理由はそれだけではない。 「ところでマスター、どうですか? 似合ってますか? (ひそひそ)」 「なーにが 『ところで』 だ。 いくら似合ってたって、そう何度も何度も同じこと聞かれちゃ 『似合ってない』 って答えたくなるぞ (ひそひそ)」 「こういう時は素直に 『似合ってる』 って言えばいいんですよ。 何度でも 『似合ってる』 って褒めちぎればいいんですよ (ひそひそ)」 神姫は基本的にマスターの好みで服を用意しなければ素体のまま過ごすことになり、“素っ裸”に見えないように素体にペイントが施されていたり細かいアクセサリが付属していたりする。 アルトレーネ型の場合は豊かな胸から臍より上の辺りまでを濃い青でペイントされ、首元と腕、脚はそれぞれ純白のカラー、ロンググローブ、サイハイソックスだ。 おまけにショーツはガーターベルト付きのようなデザインで、以上、その他の箇所は素肌を露出している。 ここまで挑戦的なデザインに加えて癖のある長い金髪は狙いすぎな感があるにもかかわらず安っぽい扇情さは無く、気品すら感じられるデザインには脱帽するばかりだ。 しかし今日のエルは一味違う。 いくらペイントが施されているとはいえツンツルテンな素体の上に、鉛色の革製ロングコートと、同色のブーツを纏っているのだ。 しかも驚くことなかれ、このコート、ただのコートではなくエルのためだけに作られた世界で一着の特注品なのだ。 ロングコートと言えば野暮ったく聞こえるが、素体の各所にあるくびれにフィットするよう作られているので、出る所は出て締まるところは締まり、よりアルトレーネ型の体のラインを強調している。 右腕の部分は何故か肩から先が無く、また左腕部の袖にはまったく意味を成さないベルトがぐるぐると五本ほど巻かれており、この左右非対称デザインに製作者の趣味が溢れ出ている。 足首まで伸びるスカート部は臍が十分見えるほど大きく前が開かれており、これがもし臍の下から開いているとエルがただの痴女になってしまうことも完璧に考慮されている。 このスカート部にもベルトがぐるりと数本巻かれており、さらに腰に二本、胸を上下に挟んで強調するように一本ずつと、とにかくベルトが多い。 エルがアルトレーネ型だからこそ着こなしているものの、これが他の神姫、例えばあの武士と騎士だったら……似合う似合わない以前に、顔が濃い…… 手に取ってまじまじと見るとその出来の良さに驚かされるばかりの逸品で、これが手作りと聞いたときはさすがに製作者の言葉を疑ってしまったのだが、睡眠時間を削りに削ったその製作者、一ノ傘姫乃の目の下の大きな “くま” はすべてを物語っていた。 (裁縫のことはサッパリ分からないのだが、姫乃の握力では革に針を通せないことくらいは想像がつく。 かなりパワフルなミシンとそれを扱う腕が必要なはずだが……) コートと同色のブーツは女性が好んで履きそうなものとミリタリーオタクが好んで履きそうなものの間を取ったようなデザインをしており、お洒落にもバトルにも使用できる優れものだ。 さすがにブーツまで手作りとはいかないものの、 「鉛色のコートに白の素足って、なんだか卑猥な感じがするの」 と姫乃がニーキのお下がりをプレゼントしてくれた。 これらを受け取って一式装備したエルはしばらくの間、調子の外れた鼻歌を歌いながら鏡の前でポーズをとるのに夢中になっていた。 ヨドマからクレイドルだけを持って俺のところへ来たため新品のアルトレーネ型が持つはずの装備すら持っていないエルに何か買ってやらないと、と考えていたのに、肝心の財布には生活費が残るのみで、単なるおしゃべりフィギュアと化していたエルを立派な武装神姫にしてくれたのが自分の彼女だという事実は、 「マスター! とってもいい彼女さんを持ちましたね!」 と満開の笑顔で言ってくれるエルの言葉と一緒に俺の自尊心をグリグリと抉った。 コートが完成したのは今朝のことで、朝九時頃にパジャマ姿で俺の部屋を訪れてエルに試着させて微調整を終えた姫乃はそのまま俺のベッドに倒れこんでしまった。 そのまま可愛らしい寝息をたて始め、服といえば第三のヂェリーTシャツだったエルがどんなにはしゃいでも、姫乃の寝顔鑑賞を邪魔するように竹さんが俺達を迎えに来ても、姫乃は午後二時まで身動きすらしなかった。 そして遅めの昼食を三人で済ませて今に至る、というわけである。 「傘姫大丈夫なん? まだ目の下がパンダっとるし、フラフラしよるけど、別に神姫センター行くのって今日やなくてもいいんやろ?」 「さっき十分寝たから大丈夫よ。 エルはせっかく今日を楽しみにしてたんだから連れて行ってあげないとね。 それに今日を楽しみに待ってたのはエルだけじゃないのよ。 ね、ニーキ?」 「……」 姫乃の今日も変わらぬカッターシャツの胸ポケットで大人しくしているニーキは何も言わず、車窓の外を眺めていた。 このニーキも、今日は素体のままではなく服を着ている。 これがまた姫乃オリジナルらしいのだが、その姿を見たときはエルのコートと並べて姫乃の趣味を少しだけ理解できたような気になった。 燕尾服である。 オーケストラの指揮者が着るような、読んで字の如く裾が燕の尾のような形をしたアレだ。 エルのコートとは違い大幅なアレンジは施されておらず (細かいこだわりはあるのだろうが、そもそも俺は燕尾服に詳しいわけではない)、取り外し可能な空色のツインテールがなくなってショートカットとなった悪魔型は男装の麗人型へと進化を遂げていた。 ニーキの冷静で淡々とした雰囲気と相まって、その端麗な容姿は華やかさを除けば宝塚のトップスターのようだと絶賛しても過言ではない。 ……俺が神姫を買うことに随分と抵抗してくれた割に、姫乃は神姫を男装させて眼の保養をしていたってわけだ、へぇそうなんだ、などと嫌味を言うつもりはないけれども。 男にだって嫉妬というものがあるのだと、彼女に知って欲しい背比弧域であった。 「ヒメに面と向かって言い難いのならば私が伝えておこう」 「やめろ。 そして俺の心を読むな (ひそひそ)」 「ほれ、二人とも電車降りるよ。 お~い傘姫生きとる? 寝たら死ぬぞ~」 姫乃のことを傘姫と呼ぶ女性、竹さんは姫乃の高校時代からの親友らしく、この少々独特な方言 (彼女曰く、北九州ベース博多アンド鹿児島アレンジなのだそうだ) はともかくとして快活な性格が外見にも表れていて、大学の益荒男共の評判はすこぶる良い。 いや性格が云々以前に、姫乃が “可愛さと美しさを足して2を掛けた” ような容姿ならば竹さんは “可愛さと快活さを足して1.5を掛けた” ようなものだ。 残り0.5は、身長こそ姫乃と大差無く俺の頭一つ分低いくらいなのだが、姫乃が持ち得ないシルエットのメリハリだ。 寧ろ益荒男共にとってはこの0.5が何よりも重要なのかもしれない。 短くサッパリとした髪に全身を春のシマムラコーディネートで固めていても何ら違和感がないのだから、その戦闘力は姫乃に一歩も引けをとら…… 「ん、どうしたの? 目のくま、そんなに変かな?」 ……いや、やはり姫乃のほうが圧倒的に可愛い。 アルティメットカワイイ。 ヒメノ型神姫とか発売されないだろうか。 いや、ここは竹さん風にカサヒメ型といったほうがそれらしいか。 「ほれ、あの建物。 まるまる一棟が神姫センターなんよ」 俺がカサヒメ型に自分のことを何と呼ばせてどんな武装をさせるか妄想を膨らませているうちに、何時の間にやら俺達一行は神姫センターの近くまで来ていた。 ――とりあえず、カサヒメ型の姉妹機はセクラベ型で保留としておこう。 神姫センター一階はさすが専門店というだけあって、ヨドマルとは比べ物にならない商品の充実っぷりだ。 客の相手をする神姫もヨドマルよりはるかに多く、ほぼ全種類の神姫が小さな体を元気一杯動かしているのを見ているだけで時間が過ぎてしまいそうだ。 「ほらマスター見てください! アルトレーネ型がいますよ! うわぁ隣にアルトアイネス型もいます! ちょっとお話ししてきていいですか? いいですよね! 行ってきます!」 勝手にポケットから棚に飛び降りたエルは完全武装のアルトレーネとアルトアイネスのほうへ走っていった。 そういえばエルは “動いているアルトレーネ” を見るのは鏡に映る自分を除いて初めてになるのだろうか。 今まで店員として働いていたエルが今日は客なのだからはしゃぐのも多めに見てやるが、あまりウロウロされると姫乃クオリティが目立って目立ってしようがない。 「あのアルトレーネのコスプレかっけー。 ここコスプレの服とかも売ってんのか」 「下の中古売り場にあるんじゃね? でもクソ高そー」 「うわまた懐かしいものを。 なんだっけあのコート。 ほら、三〇年くらい前のFFの」 「クラウドでしたっけ? 流行りましたねーあれ。 でも似てますけどコートは着てなかったような」 まあ、褒められて悪い気はしないけれど。 これでは落ち着いて店内を見て回ることもできない。 それに今日は姫乃と竹さんもいるのだからあまり出過ぎた行動は――と二人の方を見ると、何故か竹さんの前に人集りができ、エル以上に衆人の目を集めていた。 「あー今日は神姫連れてきとらんからバトルはまた今度、また今度、だからまた今度っつっとんのやから並ばんでよ! なーらーぶーな、前へならえすんな! 予約なんか受け付けとらんっての! どさくさにアドレス渡されても困るってのアポ取ろうとすんな!」 竹さんの前に老若男女問わず並んだ人達は武装した神姫を連れていて、神姫達は皆武装の確認をしたり素振りをしたりと落ち着き無く、マスター共々鼻息を荒くしていた。 ほら散った散った、と大人気な竹さんが人々を追い払い、やれやれと大きなため息をついた。 竹さん大人気の理由を姫乃が教えてくれた。 「鉄ちゃんってね、実はすっごく強い神姫マスターなのよ。 以前私をここに連れてきてもらったときもこんな感じだったわよね」 「いっつもそう。 これじゃおちおちメンテもできんもん。 そらまあ、私のコタマはそこそこ強いしバトルしたくなるのも分からんでもないけど、そんな何人も相手にできるかっての。 コタマのバッテリーは普通の神姫と変わらんっての」 「へぇ、竹さんってそんなに強いのか」 「うん。 たぶん今この神姫センターにいる誰よりも強いわよ」 「ここって……結構な人数だぞ?」 うんうん、と頷いた姫乃は自慢できる友人がいることが嬉しそうだ。 「あー傘姫、恥ずいからあんまし……」 「私も他の人に聞いた話なんだけどね、ここで大会が開催された時のことらしいんだけど」 「その大会の優勝者が竹さんってわけか! すげぇ!」 「ううん、鉄ちゃんは観戦してただけなんだって。 それでね、その時優勝した男の人が表彰台の上から鉄ちゃんを見つけて、一目惚れしちゃったらしいのよ。 その人が、たぶん優勝して少しだけ気が大きくなってたんでしょうね、その場で鉄ちゃんに告白したんだって。 そうよね?」 「……まぁね。 告白っつーか、私のこといきなり指さして 『今! あなたに惚れました! エンジェルktkr!』 やもん。 恥かいたわあ、あん時はほんと」 「でも竹さんに彼氏がいるって聞いたことないし、ってことはそいつのこと振ったのか」 「背比、今しれっと傷つくこと言ったね……振ったっつーか、その場のノリで 『じゃあ神姫バトルで私に勝ったら付き合ったげる』 って言ってしまったんよ。 うん、ノリで」 ノリノリで。 と竹さんは額を抑えて自分に呆れている。 それはそうだ。 大会優勝者、言うまでもなく最強の神姫に勝負を挑むなんていくらノリといっても愚行にも程が……ん? 「でも竹さん、彼氏はいないって……あれ、どういうことだ?」 「その場におった全員がチャンピオンが勝つって疑いもせんで、チャンピオンに挑んだ私は負けて彼氏ゲットする腹積もりと思われて、そのチャンピオンの神姫にまで 『ま、アタシのマスターはそこそこイイ男だし? アンタが考えてることも分かるよ。 それなりに手加減してやるから、適当に頑張って適当に負けて、彼氏ゲットしたら?』 って鼻で笑われて――」 眉間に皺を寄せてその神姫の嘲りを腸を煮えくり返しながら思い出しているらしい竹さんは口角を釣り上げ、凄絶な笑みを作った。 「――そんな状況で相手を完膚無きまでたたきのめすのって、ゾクゾクしたわぁ」 「ドSだ! ここにドSがいる!」 「相手の神姫、花型ジルダリアだったんだけど、手加減どころか指一本触れられずに負けてそれ以来トラウマになっちゃったんだって。 ちょっと可哀想」 「そうなん? それは知らんかった」 「未だにハーモニーグレイスを見ると足が竦んで動けなくなっちゃうんだって」 「 【 あらららら それはひどいな 超wざwまwあw 】 」 「ドS俳句だ! 姫乃気をつけろ、竹さんの近くにいたらそのうちヤられるぞ!」 「ふひひひひ! 悪いけど傘姫の体は私がもらっとくよ!」 「このっ、俺の姫乃を食うつもりか!」 「何の話よ!? やめてよ、もう!」 「ただいま戻りましたーって、なんだか楽しそうですね。 私も混ぜてください!」 「…………はぁ」 姫乃の胸ポケットの中でニーキが漏らした深いため息は誰の耳にも入らなかった。 神姫センターは二階から上が武装神姫専用のゲームセンターになっていて、神姫を連れたマスター達が百円玉を何枚も持って遊んでいる。 その中でもやはり二階のバトル用筐体はプレイヤーとギャラリーが多く、どの筐体でも神姫達がマスターやギャラリーの応援を受けて火花を散らしていた。 ビリヤード台に四角形のガラスケースを置いたような外観をしていて、大きさは四方が2m弱から1mくらいと大小様々なものがあり、高さも神姫が飛びまわるのに十分なものだ。 ガラスケースの中は何もなかったり障害物があったり、廃墟、砂漠、滝、サーキット、礼拝堂、無駄にピカピカ光るステージなど、神姫達は例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中姫乃のスカートの中 「しつこい!」 どのような状況であっても冷静に地形を生かす戦い方が求められる。 「お、そろそろ障害物無しの一番シンプルなステージが空くけど、なんか他にバトりたいステージある?」 「エル、どうだ?」 「どんなステージでも問題ありません。 どーんと来いです」 「ニーキは戦ってみたいステージある?」 「いや、私もどこでもいい」 「よし。 じゃ順番取ってくるから待っとって。 筐体使用料はまぁ、今回は私が奢ったろ」 今まさにその筐体ではバトルが佳境を迎えていた。 ありったけのミサイルを全方位に撒き散らす軍隊風の眼帯神姫は、夏の蚊のように襲い来るミサイルを涼しい顔で回避しつつ接近してくる忍者神姫に翻弄されている。 眼帯神姫がまだ起動して日が浅くバトルに不慣れなのは、筐体のガラスに張り付いて必死に応援しているマスターを見れば分かる。 彼女のマスターはさっきから 「撃て撃て撃て! 数打てば中るんだ!」 とだけ繰り返して眼帯神姫を混乱させるばかりで、もう一方の忍者のマスターは椅子にもたれ掛かり余裕綽々といったところだ。 次は俺達の番だ、あんな無様な真似はできない。 そう思うと掌がじっとりと湿ってきた。 相手は姫乃とその神姫なのだから気負う必要なんてまったく無いのに。 勝利への焦燥と敗北への焦慮は刻一刻と強くなっている。 「いよいよ私達の初バトルですね、マスター。 安心して下さい、絶対に勝ってみせますから!」 エルが俺を励ますように力強く宣言した。 その顔には一片の気後れもない。 俺はほんとうに良い神姫に巡り合えたと思う。 普通に神姫を買って、普通に箱を開けて、普通に起動して。 そんな出会い方ではきっと俺は満足できなかった。 このバトルを、これまでエルを育ててくれたレミリアへの感謝と代えよう。 「頼むぜエル。 悪魔に鍛えられたお前の力で、あの偏屈神姫をギャフンと言わせてくれ!」 「了解ですマスター! 戦乙女の名にかけて必ずや、マスターに勝利の美酒を御賞味頂きます! ――ところで、その、私の武器なんですけど、ばっちり用意してくれましたか?」 コートの左袖のベルトをいじりながらそう言って、申し訳なさそうにこちらを見上げた。 ヨドマルで働いていたエルは普通アルトレーネ型に付属するはずの剣などを持っておらず (だからこそ俺のような貧乏人が最新型を買えたのだが)、俺が武装を用意しなければならない。 防具はエルを買った時に姫乃に 「私が用意するから大丈夫。 だから絶対に他のものを買わないでね」 と念を押されて今朝になってコートとブーツをもらい、武器はというと―― 「ばっちり用意しておいたぜ。 戦乙女に相応しいやつを見繕ってきた」 「それなら早く見せて下さいよぉ~。 マスターはあんまりお金が無いから、もう私、言い出しにくくて。 素手で頑張れ! なんて言われたらどうしようかと思ってました」 「はっはっは、すまんすまん。 でもほら、自分の神姫を驚かせたいマスター心を分かってくれ。 ええと……」 鞄に入れていた “それ” を、目を輝かせて 「早く早く!」 とせがむエルに渡してやった。 「ほれ、コイツで頑張ってこい!」 「はい! マス…………た…………………………………………ん?」 筐体では丁度バトルが終わったようで、忍者が彼女のマスターに向かって親指を立てるのを見届けた竹さんが俺達を迎に来た。 「場所空いたけど、傘姫、背比、準備OK?」 「私達はオーケーよ」 「こっちもオーケーだ。 ニーキはもういいのか? まだ遺書の用意ができてないんじゃないのか?」 「問題無い。 エルを倒した後で君の眉間を蜂の巣にしてやるから、今の内に神に祈っておくといい」 「え? え? マ、マスター? こ、これは冗談ですよね?」 「よっし! それじゃ、二人とも両側に座って、そこの丸いとこに神姫を乗せれ」 「姫乃、こんな上等なコートを作ってもらっといて悪いけど、手加減はしてやれないぜ!」 「私だって全力でいくからね、弧域くん!」 「いや、ちょ……………………ええええええええ?」 ――――そして話はプロローグに戻る。 NEXT RONDO 『愛しています、私のバカマスター ~2/3』 15cm程度の死闘トップへ
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レイドボスバトル 概要 マップ 難易度設定 攻略初級編近接攻撃の立ち回り 遠距離武器の立ち回り 上級編近接攻撃の立ち回り 遠距離武器の立ち回り WAVE1 WAVE2 WAVE3 バグ・ボス情報小型バグ初級 上級 中型バグ初級 上級 大型バグ(レイドボス)初級 上級 報酬 アップデート履歴 コメント レイドボスバトル 2021.08.18~09.06 9 59(14日)の期間限定イベント。 全国のプレイヤーとオンラインで協力バトルできる。 ロケテストやカードゲーマーでは、一人プレイだけどボスを倒してスタンプを集めるオフラインレイドモードの存在が確認されたが、今回は実装されず。後のレイドボスバトル(常設)にて実装された。 オンラインレイドのマッチングは1分。見つからなかった場合は、その人数分COMが充当される。 最初の30秒は店内でマッチングを開始し、30秒間一人も見つからなかった場合、全国にマッチング範囲を切り替える。ただ必ず店内同士マッチングできるわけではないとのこと。 店内で一人でもマッチングした場合、全国にマッチング範囲は広がらない。 要はエンジョイジェムバトルと同じマッチング仕様。 概要 「ほぼすべてのインフラを支える神姫netに謎の障害が発生! その原因は武装神姫Rの世界から送られてきた謎の電子生物バグが確認された。 生活インフラからゲームセンターまでマスター達の生活を守れ! 最大4人のマスターと協力して、「バグ」と呼ばれる敵と戦う。 60秒+120秒にわたって襲来する集団を撃退した後、続いて240秒の時間内にボスを討伐する事が出来れば勝利となる(つまりゲーム時間は420秒)。 WAVE1は小バグ×8体、WAVE2は中バグ×8体、WAVE3は中バグ×4体+大型バグ(レイドボス)×1体。 青いバグは近接武器、赤いバグは遠距離武器が有効。 いずれも倒されるとリスポーンするが、通常のジェムバトルで神姫を倒した場合と同様、 倒された後も当たり判定が数秒ほど残っている。 小型バグ中型バグのサーチ範囲は片手ライトガンの射程(0.20)と同じくらいの模様。 ターゲット変更ボタンは通常のジェムバトルと働きが違い、 基本的にレバー上側が最も近い相手、下側が最も遠い相手からそれぞれロックオンしていく。 ボスには5箇所の部位があり、うち4箇所は破壊すると一定時間ダウン(行動不能)する。 部位によって有効な武器種が異なる事に注意。 攻撃範囲が広い武器で攻撃すれば、一度に複数の部位にHITする。 仲間の神姫と同じ敵をロックオンすると、攻撃にダメージボーナスが追加される。 (2人で+20%、3人で+40%、4人で+60%) 回復・補助武器で仲間に攻撃を当てると、仲間のLPを回復させる事が出来る。現状では… 「オルフェウス」(イーアネイラ) 「マルレーン712[C]」(シュメッターリング) 「ホーリーエコー」(ハーモニーグレイス) の追加武器3種となっている。 (ブライトフェザーのバスターシュリンジやスタンショッカーも適合しそうなものなのだが……) バグ、ボス共に「防御力ダウン」等のデバフ系スキルの効果を受けるが、効果がどれくれいかは不明。 「状態異常スタン」等一部のスキルは効果を受けない。 なお、このバグは「武装神姫R」の世界から流入してきたものである事が判明している(エーデルワイスの項も参照)。 集団の姿はプチマスィーンに、ボスの姿は「グラディウス」シリーズのダッカーに類似する。 ビジュアルイメージに対し体躯がかなり大きいのは、おそらく誤射防止のためか。 NPCとして「謎のエーデルワイス型」が登場。参加プレイヤーが一人か三人の時に戦場に姿を現す。 ステータスはLV60かLV100の模様。AIは他のジェムバトルと同じ。 なお、武装神姫Rの設定もあり、エーデルワイス用武装の防御力に少量のバフが掛かっている。 ジェム回収ボタンの仕様が変更されており、レイドバトルでは撃破された仲間にジェム回収範囲を当てることで、再出撃までの交代時間を短縮することがでる。 (レイドバトルはジェムバトルより再出撃までの時間が倍近く長くなっている) レイドバトル中は仲間をロックオンできず、画面タッチでのみロックオンすることができる。 また、ロックオンせずともジェム回収範囲が当たればOK。 ジェム回収展開速度は他のジェムバトルと同じ仕様。 チャットボタンのタッチによって他マスターへメッセージを送る事が可能。 メッセージ内容は「よろしんき」「ありがとう」「たすけて」「グッジョブ」「武装神姫」の5種類固定で設定されている。 マップ 神殿に近いが、神殿よりもオブジェクトが減ってほぼ更地と化している。そしてMAP全体が闇に包まれており… 近接バグは上に攻撃できないため、MAP四つ角にある背の高い柱に乗れば近接バグからの攻撃が届かずに済む。 難易度設定 「初級」と「上級」の二種類がある。 ※所属リーグに関係なく、他のバトルモード(マッチング)と共有しない。 「初級」はエンジョイジェムバトルと同じく、武装LVが20に強制統一される。 「上級」には武装LVの強制統一などはない。敵のLVは所属リーグに影響されない。LV100相応。 攻略 同時ロックオン補正があるが、それ以上に武器補正ダメージボーナスの方が大きいです! 例) 誰もロックオンしていない近接バグに遠距離攻撃>4人全員がロックオンした近接バグ(+60%)に近接攻撃 初級編 近接攻撃の立ち回り 元々ハイリスクローリターンなカテゴリーだが、バグ相手ではさらに分が悪くなってしまう。 小型中型の近接バグのDPSがかなり高く、こちらからの武器補正もないのでまずダメージレース負けする。 殴りあうと損害がとんでもなく大きくなるので、基本的に相手にしないのが良いのだが、逃げ切るのは不可能。 報酬は諦めて柱に乗ってひたすらやり過ごすのも手だが、WAVE3では通用しない。 正直レイドボスよりも中型近接バグをどう対処できるかがクリアに繋がっていると言っても過言ではない。 もちろんレイドボスも厄介。どの攻撃も強烈で、長時間殴れることはほぼない。 ウェポンやボディに攻撃が届かない ダメージボーナスがないので、攻撃する箇所はほぼ脚のみとなる。(回し蹴りと後ろ蹴りの軸足になっている左脚が狙いやすい) 遠距離武器の立ち回り このバトルでの大切なダメージ源。遠距離から攻撃できるというだけでどれだけ楽に立ち回れるかが分かるだろう。 とりあえずヴァッサーマン・D-MPやFB256 1.2mm滑腔砲等の射程が長い武器で観察と攻撃を繰り返してレイドバトルの経験を積もう。 ただ射程が長い=DPSが低いなので、ある程度慣れてきたらDPSに優れた片手ライトガンを装備しよう。中でもポーレンホ-ミングがオススメ。典型的なPLには当たり難いがCOMには当たり易いという性質が理由。装弾数を3にすればかなりのDPSになる。 10/7から再開された際にはバグステータスに調整が入り多段hit系の射撃武器は装備構成次第でかなり与ダメージが減少するよう調整されたので考えもなしにポーレンホーミングを使うと泣きを見る羽目になる。近接バグも割りと固まって襲って来やすくなったので爆風付きの腰持ちヘビーガンには追い風となっている。 上級編 近接攻撃の立ち回り 基本は初級と同じだが、よりダメージレース負けしやすい。 初級では他の近接武器カテゴリーでクリアできるが、上級ではほぼ双頭刃斬撃武器一択。 遠距離武器の立ち回り 必要なダメージ量が増えたので生半可な武器ではタイムアップする。 やはり装弾数を3にしたポーレンホ-ミングがオススメとなる。耐近接攻撃があってリロードが高速化するフォートブラッグもオススメ。 しかもお互いにシナジーがあるので、とりあえず困ったらフォートブラッグに装弾数を3にしたポーレンホ-ミングで良い。というかそれ以外だとかなり難易度が上がる。 WAVE1 60秒と短い上に敵が最大6体しかMAPに存在できないので、最大報酬まで獲得するのは結構難しい。撃破したらすぐ別のバグを狙おう。 遠距離バグの攻撃ダメージはしょぼいので無視して良い。 60秒経てば次のWAVEに進む MAP下側に遠距離武器持ちバグが出現しないので、最悪MAP下側の柱の上に乗ってるだけでも良かったり。 約15秒経過すると40秒間MAP左上にスキルポッドが出現する。 WAVE2 120秒間ひたすら近接バグを凌ぐ。 理論上四人でMAP中央に居続ければどのバグも起動させずに済ませられるが、COMが一人でも入るとアウト。 自信がなければやはり柱の上に乗るのが一番。すぐ隣の遠距離バグから常に攻撃されるので、ガードで対処しよう。オススメはMAP左上。 約20秒経過すると40秒間MAP左上にLPポッドが出現する。 約75秒経過すると40秒間MAP左上にスキルポッドが出現する。 WAVE3 240秒の間にレイドボスを撃破すればクリア。 約60秒経過すると40秒間MAP左上にLPポッドが出現する。 約120秒経過すると40秒間MAP左上にスキルポッドが出現する。 バグ・ボス情報 小型バグ WAVE1のみに出現。 WAVE1開始時の近接バグは、開始一秒時点で自身から一番遠かった神姫のみ狙うAIになっている? 増援の近接バグは、サーチ範囲に一番最初に入った神姫のみ狙うAIになっている。 遠距離バグは、サーチ範囲に入った神姫(複数いる場合は一番近い神姫)を狙うAIになっている。 最初に出てくるバグなだけあって火力も耐久も控えめかと思いきや、近接バグが結構油断ならない。 攻撃頻度がこちらの近接攻撃なみに速く、見た目以上のいんちきくさい攻撃範囲を持っている。しかもダメージもそこそこある。 一度取り付かれて攻撃モーションに入られたらダメージは避けられないと思って良い。 初級 ス 体 500? ? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 近接攻撃 ? 0.1? 遠距離攻撃 ? 0.25? 80? 上級 ス 体 500? 5000? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 近接攻撃 300? 0.1? 遠距離攻撃 100? 0.25? 80? 中型バグ WAVE2とWAVE3に出現。 WAVE2WAVE3開始時の近接バグは、バトル開始時点で自身に一番近かった神姫のみ狙うAIになっている。 WAVE2増援の近接バグは、サーチ範囲に一番最初に入った神姫のみ狙うAIになっている。 WAVE3増援の近接バグは、バトル開始時点で自身に一番近かった神姫のみ狙うAIになっている。 遠距離バグはどちらのWAVEも、サーチ範囲に入った神姫(複数いる場合は一番近い神姫)を狙うAIになっている。 小型バグの倍近い耐久と火力。 一回のダメージがそれなりにあり、複数出てくるのもあってダメージが積み重なりやすい。 背丈が神姫とほぼ同じだが、横幅が神姫三人分・空中に浮いているとあって、かなり大きく見える。 複数の攻撃タイプがいるが、中でも近接バグが厄介。 0.3秒~0.5秒とリキャストが速く、見た目通りの判定もあって近寄られると危険。ただし遠近バグ共に地上リアの挙動と同じ為、ホバリングを続けれる限りは近接バグの攻撃は届かない為安全である。 特にWAVE3はMAP真ん中に出現・増援するため、起動させないよう立ち回るのは不可能に近い。 上級をクリアするにはこの近接バグをどれだけ上手く対処できるかにかかっている。 初級 ス 体 500? ? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 近接攻撃 ? 0.07? 零神のMVソードに類似。WAVE3にも出現 レーザー ? 0.25? 80? 貫通属性。WAVE2ではMAP左下と右下を担当。WAVE3にも出現 ヘビーガン ? 0.25? 60? WAVE2ではMAP右上を担当。誘導が良い ガトリング ? 0.25? 60? WAVE2ではMAP左上を担当 上級 ス 体 500? 7500? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 近接攻撃 500? 0.07? 零神のMVソードに類似。WAVE3にも出現 レーザー 500? 0.25? 80? 貫通属性。WAVE2ではMAP左下と右下を担当。WAVE3にも出現 ヘビーガン 400? 0.25? 60? WAVE2ではMAP右上を担当。誘導が良い ガトリング 100? 0.25? 60? WAVE2ではMAP左上を担当 大型バグ(レイドボス) 3WAVEに出現。 とにかくでかく、その巨体に見合った耐久と火力を誇る。 いずれの攻撃もダメージが大きく、近接攻撃の大半が予備動作がないのでガードは不可能。 しかも位置取りによっては一部の近接攻撃がボディに届かないので、基本的には遠距離武器の射程ギリギリから攻撃するのが安定になる。 「右脚」「左脚」「ボディ」「ウェポン」「頭」の五つから構成されている。「ボディ」以外は破壊可能。 破壊した部位に攻撃を当てると、通常よりもダメージボーナスが入る。 初級 部位 体 備考 右脚 30000? 近接武器でダメージボーナス有り 左脚 30000? 近接武器でダメージボーナス有り ボディ ? ウェポン 30000? 頭 30000? 遠距離武器でダメージボーナス有り 総合体力 120000~200000? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 後ろ足で蹴る ? ? 右足で後ろに蹴りを二回。 回し蹴り ? ? 少しため動作をした後、左足を軸に右足で時計回りに一回転回し蹴り。 突進 ? 0.5? ? まっすぐ突っ込む。二回連続で突進する場合も。 レーザー ? 0.25? 80? 頭をかがめる動作をした後、ボディとウェポンの接続部からレーザーを4連射。銃口補正があまりないので、少し離れれば直角に歩いて避けれる。貫通属性 主砲 ? 無限 60? ウェポンから誘導する弾を一発。誘導性能がとても高く、股下にいても飛んでくる。 上級 部位 体 備考 右脚 150000? 近接武器でダメージボーナス有り 左脚 150000? 近接武器でダメージボーナス有り ボディ ? ウェポン 150000? 頭 150000? 遠距離武器でダメージボーナス有り 総合体力 600000~750000? 攻撃名 功 射程 弾速 備考 後ろ足で蹴る 1000? ? 右足で後ろに蹴りを二回。 回し蹴り 1200? ? 少しため動作をした後、左足を軸に右足で時計回りに一回転回し蹴り。 突進 1000? 0.5? ? まっすぐ突っ込む。二回連続で突進する場合も。 レーザー 1300? 0.25? 80? 頭をかがめる動作をした後、ボディとウェポンの接続部からレーザーを4連射。 主砲 1500? 無限 60? ウェポンから誘導する弾を一発。誘導性能がとても高く、股下にいても飛んでくる。 報酬 バトル参加報酬として初級は【Rネジ】×10個、上級は【Rネジ】×20個獲得できる。 WAVE1の小バグ、WAVE2の中バグを撃破する事で、一定の確率でご褒美(コンテナ)が貰える。 WAVE3は中バグの撃破数は関係なく、レイドボスの部位を破壊するごとに(最大4つ)、レイドボスを早く討伐するほど(残り150秒を切ると10秒毎に-1つ?)多くのご褒美が貰える。 レイドボスを倒せなくとも、WAVE1WAVE2に獲得した報酬と、レイドボスの部位破壊をした数の報酬は貰える。 この時点で噂されていたバトコンオリジナル神姫「闇神姫」については、レイドボスバトル(常設)にて実装された。 アップデート履歴 日時:2021.08.18 内容:期間限定イベントとして追加実装。 今回はオンライン初級・上級のみで、オフラインの実装は見送られている。 日時:2021.07.16~18 内容:公式ロケテスト。なおこれに伴い、飛鳥の先行参戦が発表されている。飛鳥とレイドボスの関係はまったくないとの事。 コメント ソロならN SR SRかな。NPCの一人編成にスキルのカーテンコールは有効なのか? -- 名無しさん (2021-08-19 04 30 09) 有効みたいですよー。控えがシュメッターリング2人ならURでも最出撃までの時間が4秒になるので、かなり有効ですよ。 -- 名無しさん (2021-08-19 07 19 59) 期間限定のイベントであってもこれ常時実装させるなら一部の武装とスキル見なおさないと其一択になるような…と言うか協力プレーだから成果は全体で共有であっても一人が大暴れする流れはもうそれオンラインでやる必要性がないようなと思える -- 名無しさん (2021-08-31 23 20 32) 名前 コメント
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「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「・・・お、おはよう」 「・・・・ん、おはよ」 クラブハンド・フォートブラッグ 第二十二話 『それを私にどうしろと』 うじうじすんのはもう止め。 確かにそういった。そういったけど・・・・。 「昨日の今日で何を話せばいいかわからないと」 「・・・・うん」 「全く、男女の仲というのは・・・どこも似たようなものですわね」 そういって遙はから揚げを口に放り込んだ。 うぅ・・・仕方ないじゃない。だって判らないんだもん。 「あはは。ほら、春奈ちゃんはツンデレだからさ。こういうのには弱いのよ」 クラスメイトのリオは笑いながら傍観している。 いや、アンタだって弱いじゃない。このブラコン。 ちなみに、八谷は四時間目が終わるやいなや学食にダッシュしていった。 教室出るときにこっち見てたから・・・多分むこうも気にしてるんじゃないだろうか。 「はぁ・・・いつまでもうじうじと。もういっその事貴女から思いを告げては如何? まだはっきりと口に出してはいないんでしょう?」 ・・・・確かにそうだけどさ。 なんというか・・・・ 「きっかけがない、と?」 「・・・うん」 どうしたものか。 今までだったら話すきっかけなんて考えたこともなかった。だって自然に話せてたし。 「・・・・もうこうなったら、何かきっかけを見つけるしかないですわね。とはいったものの、二人の共通点となると・・・・近所のお話なんてどうですか?」 「元からしないわよ。そんな井戸端会議みたいなこと」 「だったら何か昔の話とか」 「今の状況で出来ると思う?」 「昨日見た番組・・・」 「ニュースしか見ないわよ」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「じゃぁどうしろって言うのよ!!」 「逆ギレ!?」 何か怒こられてしまいましたよ!? これは私が悪いのか・・・いや多分違うと思うけど。 「もう全滅じゃないですか・・・・打つ手無しとは・・・・」 「・・・あのさ、二人とも」 と、私と遙が絶望に浸っていると今まで黙っていたリオが手を上げた。 二人揃って無言でリオの方を見る。 「共通点だったらさ、武装神姫があるじゃない?」 「・・・・・・・・・・あ」 「・・・・・・・・・・・それですわッ!!」 すっかり忘れてた。 っていうか当たり前すぎて気づかなかったんですけど。 「そうなると・・・・何か神姫の話で呼び出して・・・・」 「どーんといってガッシャンバラバラ」 「何の音ですの!?」 何か二人とも考え込んでるし。 ・・・なにか、いやな予感がするのは私だけかしらね。 「あ? 七瀬に会いづらい?」 現状を話したところ、親友その一・冬次君は非常に良く判らない顔をしました。 冬次も女顔、というか女にしか見えないから微妙な気分だけど。 「いやだってさ・・・アレだよ? なんてーかさ・・・ほら」 「あーまぁ言いたいことは判るけどよ。・・・・参ったな。どうするよ?」 そういって冬次は隣にいたハラキリ(あだ名・腹部に刺し傷がある)に話題を振る。 ・・・・ここでも名前がないんだこの人は。 「いやそれを言われてもだな。宇宙人相手にした方がまだ勝ち目があるだろ」 「それを言うなよ・・・なんか悲しくなってくるじゃねぇか」 そういって三人ともうな垂れる。 学食の中、このテーブルだけが何か暗かった。 「ともかくアレだ。押して押して押しまくれ。今のままじゃ絶対いけないぜ。会いづらいってんなら何か・・・考えて見るか」 そういって考え込む男三人組。 学食のにぎやかな空気がなんとも居心地が悪かった。 「・・・・お前と七瀬の共通点となるとだ、神姫しかないだろう」 ハラキリが重くそういった。 「そりゃそうだが、そっからどうするんだよ」 「・・・果たし状を送りつけてだな。勝ったら自分の話を聞いてもらうとか」 「よしそれで行こう」 「いやいや待ってよ絶対何か間違ってるでしょそれ!?」 この二人に任せてたらダメだ!! 失敗とかそういうの以前に何かダメだ!! どうしよう・・・・・。 「ちょっと。そこのなんか暗いズッ○ケ三人組」 僕が真剣に悩んでいると、誰かが話しかけてきた。 顔を上げると女生徒がいた・・・誰だっけのこの人。 「ん、どうしたよハルカ」 女生徒の存在に気づいたハラキリが気軽に声をかける。知り合いだったらしい。 「・・・お前、クラスメイトぐらい覚えとけよ」 え、あ、クラスの人だったんだ。 全然気づかなかった。 「・・・・ん、話してもよろしいかしら?」 どうぞ、と視線を送る男三人組。 「まずはこれをどうぞ。・・・これに書いてあることは絶対ですわ。彼女は延期も欠席も認めません。もしもそんなことがあったら・・・・まぁ大変なことになるでしょうね」 そういってハルカさんは一枚の封筒を僕にわたしてきた。 そこには・・・・ちょっと待て、何で『果たし状』って書いてあるんだ。 「三日後の午後三時、ちょうど午前授業の日ですわ。その日に貴方達がよく行く神姫センターで彼女は待ってます。ステージは砂漠、勝負形式は一対一の一本勝負、勝たなければ彼女は・・・男の子なら、こんな試練くらいちょちょいと打ち破って御覧なさいな」 そういうとハルカさんは踵を返してどこかへ行ってしまった。 残されたのは微妙な顔をした男三人組と果たし状だけ。 ・・・七瀬。 発想がこいつらと一緒だよ? 戻る進む
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ちっちゃいもの研の日常-02 ここは東杜田の片隅にある、ちっちゃいもの研・・・。 「CTaさん、ちょっとお願いします。」 見慣れない顔の男が、CTaに設計図のチェックを依頼している。 「うーむ、よしよし。 これでいいんじゃないかな。」 「あ、ありがとうございます!」 ダメ出し28回目にして、ようやく通った模様。 彼の目の下には、はっきり とした隈がうかんでいる。 ちょっと足もおぼつかない様子。 「・・・あのなぁ、いくら若いと言っても無理をしちゃいかんぞ。 あとで 言っておくから、先帰って寝ろや。」 彼は今年配属になった新人。なんでも、久遠のツテで本社へ入社したとかで、 当初からバリバリ仕事をこなし、ついには腕を買われてちっちゃいもの研へ 配属になったという経緯がある。 「はぁ、ありがとうございます。ですが、ちょっと私用で機材を使いたいの で、昼まではいることにします。」 というと、ちょっと頭を下げて自分の作業台へと戻った。 「ん〜? 何を作っているのかな〜?」 こそこそと隠れるように作業をする彼の元へ、CTaが行ってみると・・・ 武装神姫。 にやり、意味深長な笑みを浮かべるCTa。 「ちょ、ちょっと・・・何ですか・・・って、えぇ?!」 「いいモン持ってるねぇ。」 「ボクのマーヤに触らないで下さい!」 慌てて、伸ばされたCTaの手から、マーヤと呼ばれた「ツガル」を守る。 「ほうほう、だいぶ疲れている感じじゃないか。」 「もう、ほっといてください! ・・・先週の対戦で、左膝負傷しちゃった からねー・・・ ようやく手が空いたから、今治してあげるよー。」 「やさしくしてくださいね、おにいさま。」 そのやり取りに、CTa暴走。 「ぐわあぁぁっ!! おにいさまと、おにいさまと呼ばせたな!」 「な、何ですかいきなり!!」 背後からの叫び声に、びっくりして作業する手を止める男。 「認定! ちっちゃいもの研の、神姫使いリストに強制編入!」 「ちょ、ちょっと、CTaさん・・・。」 「ときにお前、神姫のメンテナンスはできるか?」 「はぁ・・・よほどコアが傷ついていない限り、治せる自信はありますよ。」 「よっしゃ! 決まった! お前、あたしの下、ナンバー2決定!」 「何なんですか、いったい!」 と、男が叫んだとき。CTaの白衣のポケットから、沙羅とヴェルナが顔を覗 かせた。 その姿に、男は驚き、固まった。 ・・・CTaさんも、神姫使い だったのか?! ということは、もしかして・・・自分は久遠さんにもはめ られてしまった可能性も・・・?! 混乱する彼にCTaは追い討ちをかける。 「それだけの神姫に対する愛、そして裏付けられた技術。 おまえ、あたし の一番弟子決定だわ。」 「はぁ?」 「はーい、拒否権無ーし。 いやー、困ってたんだよー。 最近、神姫関連 の修理だの研究だの、依頼が多くて多くて。あたし一人じゃ手一杯でさ。」 「そういうことだったんですか。」 「ただーし! 神姫とかをいじる人間は、ここでは偽名を持たなくっちゃい けないんだな、これが。 そーすっと、あんたの場合は・・・ 本名がアレ だからぁ・・・ 『Mk-Z』でどうだ。 うん、これがいい。 決定ね。」 言うが否や、CTaは近場の端末を操作し、研究所の所内用名簿から彼の本名 を抹消し、「Mk-Z」と冗談抜きで入れてしまった。 「あ・・・。」 悲しそうな顔をする、Mk-Zと名付けられてしまった彼。 「大丈夫。こうすれば、あんたもこそこそすること無く、存分にマーヤへ愛 を注ぐことができるのさっ!! どうだっ!」 「どうだ、と言われましても・・・」 「なにぃ? 嬉しくないのか?」 「い、いえ、嬉しいんですけど、なんか納得いかない気がして・・・」 「あんたが納得いかなくても、あたしは納得したからいいよ。」 「そ、そんな〜!」 悲鳴を上げるMk-Z。と、彼の手元へ、沙羅とヴェルナがやってきた。 「どうもっス! 沙羅って言うっス! こっちはヴェルナって言うっス!」 「よろしくおねがいします〜。 そうそう、先ほど関節がっ、て言っておられ ましたよね。ここに、マスターが作った削りだしの強化関節がありますので、 ぜひお使いください。」 そういいながら、ヴェルナはリゼにも使われているあの強化関節パーツを一組 差し出した。 美しく、鈍い光沢を放つパーツに、目を奪われるMk-Z。 「せっかくだから使ってくれよ。 あたしの弟子になってくれた以上は、悪い ようにはしないよ。 もちろん、通常業務の上でも、ね。」 ・・・変なノリで、変なところに転がり込んでしまった気がしない訳でもない。 でも居心地は悪くなさそうだな・・・。 こういう仕事も、いいのか・・・な? Mk-Zは、自分の置かれた境遇が、じつはとても恵まれているのではないか、 と思い直し、CTaにちょっと感謝をしていた・・・。 それから一週間後。 「はい、あーん。」 「・・・おにーさまー、この塩鮭、美味しいですー!」 「おー、そうかそうか。 じゃ、こっちの唐揚げもあげよう。」 「えっ! いいんですか? それでは・・・いただきまーす!」 昼休み、マーヤに仕出し弁当を分け与えるMk-Zの姿が。さっそく、CTaによって、 マーヤにも食事機能が搭載されていた。・・・いや、むしろ彼が進んで食事機能 を搭載した、と言うべきか。と、 「Mk-Zよぉ。さっき知り合いから電話があってな。 バトルに負けた神姫を叩き 壊したアフォがいたらしくて。 その神姫を、これから連れてくるそうなんだが、 お前に任せてもいいか?」 本来の医療関係の仕事の資料を山と持ったCTaが、Mk-Zに声をかけた。Mk-Zの 目つきがかわった。 「なんですと? 負けた神姫を、叩き壊した・・・だって?」 弁当にいったん蓋をすると、マーヤに命じた。 「マーヤ、受け入れ態勢を整えるんだ。」 「わかりました、おにーさま!」 「人間に叩き壊されたとなると、相当の傷を負っているだろう・・・。 任せて ください師匠! 神姫ドクター・Mk-Zの名にかけて、ちっちゃい心、救います!」 マーヤと並んでぐっと拳を挙げたMk-Z。 にやりと笑みを浮かべ、それに答えるCTa・・・。 ここに、ちっちゃいもの研「最強」の、神姫ドクターコンビが誕生した。。。 <トップ へ戻る<
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ぶそしき! これから!? 第1話 『ハジメテ』 1-3 「あ、あはは……」 「なに笑ってんだよマスター。あ、そうだ!」 乾いた笑いをしているマスターに、さっきまで悔しがっていたヒイロが呼びかける。 「あ、なにかな?」 「この武装パーツ気に入ったらからさ、買ってくれよ!」 ヒイロは胸を張って自身の格好を見せる。 ヴァーチャルバトルで傷ついても、リアルには反映されない。 始めに試着した時のまま、レイディアントアーマーは磨かれた鏡のような輝きを誇っている。 その手に持つレーヴァテインも当然、その切っ先は折れていない。 「う~ん、そうだなぁ。よく似合っていたし」 「そうだろそうだろ。それにオレ素体だけの状態だったから、武装が何もないし」 友大は腕を組んで悩む。 (ヒイロとそのクレイドルを買うだけで、今まで貯めていた分をほとんど使っちゃったんだよね。でもあんなに必死だし。幾つかの武装パーツくらいなら、今月のマンガやおやつとか、あきらめればいけるかな……?) ふと、今ヒイロが装備しているものの値札をしっかりと見ていなかったことに気づく。 「すいませーん」 「はーい、なんでしょうか?」 友大は近くにいたセラフィルフィスを呼び寄せる。 「今ヒイロが試着している武装っていくらですか?」 「マスター!」 ヒイロの顔が輝く。 「そうだね、レイディアントの黒一式とレーヴァテインだから、合わせてこの位になるよ」 電卓に武装の金額を打ち込んで見せてくれる。 「え」 その額を見て、思わず声をあげる。 「合わせてこの位になるよ」 電卓に表示されている金額を言う営業スマイルのセラフィルフィス。 「……」 「……マスター?」 黙り込むマスターをヒイロは怪訝に見る。 「ごめん、ヒイロ」 「ま、マスタ~」 顔を伏せて謝る自身のマスターに、ヒイロは情けない声を出してしまう。 「な、ならせめて! せめてレーヴァテインだけでも……!!」 「レーヴァテインだけだと、このお値段だよ」 営業スマイルのセラフィルフィスが、すばやくその値段を告げる。 「……」 「……ま、マスター」 再び黙り込む自身のマスターを、ヒイロは不安げに見る。 「…………………………ごめん」 「ま、ますた~~」 沈痛な声に、ヒイロは再び情けない声を出してしまう。 ■ ■ ■ 「……」 「ひ、ヒイロ……」 「……」 あの後、ヒイロが試着していた武装パーツを返却した友大。 ショックでいじけてしゃがみこみ、のの字を書いているヒイロへの対処に困り果てる。 「そ、そういえばさ。セラフィルフィス」 困り果てた友大が、現実逃避するかのようにセラフィルフィスに質問する。 「武装神姫の武装パーツって、プラモのとかと比べてすごく高いんだけど、なんで?」 「リアルバトルでも使えるよう、良い素材を使っているのもあるよ。実際に動いたり飛んだりとか機構が入っているパーツは、当然その分高いんだけど――」 セラフィルフィスが例として、ストラーフやイーダなどの神姫のリアのアーム、アーンヴァルやアスカのフライトユニットなどを出す。 「リアルバトル、ヴァーチャルバトルのどちらでも設定された機能を発揮できるよう、神姫の武装パーツにはデータチップが仕込まれているんだよ。見た目特に機構がないパーツも割高なのは、そのせいだね」 「そ、そうなんだ。ありがとう、セラフィルフィス」 「どういたしまして。頑張ってね、新しいマスターさん」 今度は営業スマイルではなく、見守るような微笑みをかけてセラフィルフィスが立ち去る。 ■ ■ ■ 「ひ、ヒイロ。今度おこづかいが出たら、何か買ってあげるから」 「…………約束するか?」 「あ、ああ。……あ、さっきの装備を全部は無理だけど、ひ、1つは買ってあげるから」 「……絶対?」 「ああ! 絶対買ってあげるから!」 「……」 「……」 「……分かった」 ■ ■ ■ 「「ありがとうございました」」 何とかヒイロの説得に成功した友大が店を出る。 その際に星原店長から、ヒイロをいきなりリアルバトルには出さず、ヴァーチャルバトルで経験を積むよう忠告を受ける。 「――あ、夕日だ。思ったより長くいたんだなぁ」 紅い夕日が友大とその神姫を照らす。 「そう言えば、マスターの家ってどんなんだ?」 肩に乗ったヒイロが自身のマスターに尋ねる。 「ここから自転車でしばらく走ったところにある一戸建てだよ。そういえば――」 「なんだ? なにかあるのか?」 「――いや、なんでもないよ」 ふと気づいたことを呟きそうになったが、寸前で止める。 (家に戻るのに、1人じゃないのは久しぶりだ……) 騒ぐヒイロをなだめながら、少し感慨にふける。 ■ ■ ■ 「ダンボールだらけだなー」 家に入るなり、ヒイロがそんなことを言い放つ。 「引っ越したばかりで取り敢えず、すぐに使うものを出しただけだからね」 「そうなのかー」 肩から降りて、ダンボールの中を覗いたりなどするヒイロの姿に、友大は思わず苦笑する。 (あ……) ヒイロの姿を見て、ふと思いつく。 「ちょっと、ヒイロ。そこで待ってて」 「なんだよ?」 怪訝げにだが、急に部屋を出ていった自身のマスターの言葉通りに、ヒイロは待つことにする。 「え~と……あ、あった!」 自分の部屋に戻り、家庭科で使っていた目的のものと自身の赤いTシャツを、ダンボールから取り出す。 「葉々辺さんのクラハみたいなのは無理だけど……」 友大少年は、ふと昨日今日と出会った神姫達の姿を思い起こす。 「これなら、僕でも」 断ち切りバサミでシャツの袖を細く切り取り、長細い布切れにする。 「ヒイロ、ちょっとこっちに来て」 「? なんだよ」 自身のマスターに呼びかけられ、近づく。 「そこでいいよ。そのまま動かないでね」 「?」 自身のマスターの手によって、ヒイロの首になにか巻かれ、結ばれる。 「僕からのプレゼントだよ。どうかな?」 ヒイロは自身のマスターが持っていた手鏡に映った自身の姿を確認する。 「――あ。か、格好いいよ! ありがとうマスター!!」 何かのヒーローのような赤くて長いマフラーを身に付けた自身の姿を見て、ヒイロが大はしゃぎする。 「良かった」 思いつきに大喜びをする自身の神姫の姿を見て、友大は自身の心が温かくなるような感じを覚える。 「僕は子どもで、お金がなくてろくにパーツを買ってあげられない。きれいな服や格好いい武装パーツを作ったりなんでできないけど――改めて、これからもよろしくヒイロ」 友大が自身の神姫に向かって手を出す。 「何言ってんだよマスター。こんな格好いいの、プレゼントしてくれたじゃないか。 うん――改めて、これからもよろしくマスター」 ヒイロが自身のマスターの指を両手で掴む。 胸が熱くなるような感覚を覚える。 (うん、良かった) 胸中にそんな思いが過る。 ――――To Be Continued☆ ――ヒイロの武装データが更新されました。 ウェポン:なし ヘッド :なし ボディ :なし アーム :なし スカート:なし レッグ :なし リア :なし シールド:なし アクセ :赤いマフラー 前へ / 続く トップページ
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● 三毛猫観察日記 ● ◆ 第二話 「激闘!あおぞら商店街!」 ◆ 「ドキドキします…お二人の足手まといにならなければいいんですが」 「なに言ってるのよ小春ちゃん、今日は小春ちゃんが主役なんだからね!」 「そうですよ小春さん、大いに期待してますからね!」 どうも小春ちゃんって自信無さげなのよねぇ、あんなに強いのに。 「それでは今日の作戦を最終確認しましょう」お姉さん格のサンタ子ちゃんが言った。 7月22日、とうとう大会の当日です。アタシと小春ちゃんのデビュー戦だけど、一緒に トレーニングしてきた感じ、なかなかいいチームになったと思うの。 索敵・司令塔のサンタ子ちゃん。(ランカーなので自主的にハンデのウエイト装備) へヴィアタッカーの小春ちゃん。 そして小春ちゃんの盾/遊撃兵のアタシ。 このメンバーとコタローの特製装備なら、セカンドクラスでもいけると思うわ! 「・今日は6チーム総当りの5回戦で『市街戦』での模擬戦・リアルバトルです。 ・私が空から指示を出します。私が見ている映像は二人のバイザーに転送しますので、 敵との相対位置を測るのに役立ててください。 ・私に何かあったら指示はミアさんが出して下さい。どうやらミアさんの分析能力は 私達の中で…いえ、一般的に見てもトップレベルだと思うので、戦闘に慣れてきたら 司令塔を変ってもらうかもしれません。 ・作戦の基本は『小春さんを守る』です。状況によってはミアさんの遊撃もアリですが、 敵が二人以上残っている場合は、なるべく小春さんから離れないでください。 「ペイント弾でも気を抜くと怪我をしますから注意を。何か質問はありますか?」 「ありませ~ん!小春ちゃんはミアちゃんが絶対守るからね!」 「あ、あの…よろしくお願いします(モジモジ…はあと♪)」 一戦目、敵は悪魔型×2、天使型1。 一人で飛び出してきた天使型をサンタ子・小春の連携で瞬殺。その後サンタ子ちゃんが 残ったうちの一人を足止めして、もう一人をミア・小春の連携で瞬殺。で敵がギブアップ。 二戦目はもっと簡単。三人の騎士型を小春ちゃんが順番に撃破。アタシもサンタ子ちゃんも 傍で見ているだけでした。 三戦目は少し苦戦。編成がコッチと似ていたの。(天使型・騎士型・砲撃装備の悪魔型) でもそれはサスガにサンタ子ちゃん、サンタ子:騎士、小春:天使、アタシ:悪魔って 1対1同士に持ち込んで、被害無しで勝利。(あのままだと一人ぐらい被弾してたわね… やっぱり司令塔はサンタ子ちゃんでなくっちゃ!) 四戦目は不戦勝。対戦相手がケガをしちゃったみたい。アタシ達も気を付けないと… 休憩室のテーブルで一休みです。 「やったな小春、大活躍じゃないか!」 「あ、ありがとうございます♪」小暮ちゃんに誉められて、小春ちゃん嬉しそうね! 「よし、このまま無傷で優勝しちゃえ~!」 「はい、頑張ります♪」「そうですね!」「しちゃえ~!」 「こんにちは徳田さん。お元気そうですね」 突然、肩に天使型の神姫を乗せたスーツ姿の男が声を掛けてきたの。 「やぁ、久しぶり!…えーとゴメン、誰だったかな…」 「次の対戦相手の影田です。あぁ私自身は初対面ですよ。でも貴方の事は良く知ってます」 アキオちゃん、困った顔をしてます。本当に心当たりが無いみたいね… 「まだ解りませんか?あれ、今日は侍型の神姫は連れていないんですね。あぁそうか、 私達が破壊しちゃったんでしたっけねぇ」 突然アキオちゃんが、ものすごい形相でソイツに殴りかかった。 「キサマ『エスト』のメンバーかぁぁぁぁっ!!!」 「止せアキオ!!!」コタローがアキオちゃんを羽交い絞めして止めた。 ソイツ・影田は、ヤレヤレと呆れた仕草をした。 「あなた達のおかげで『エスト』は解散しました。しかし、まさかこんな所で報復の チャンスが来るとは思いませんでしたよ。 大会の運営部にはラストバトルだから実弾で盛り上げたいと話してあります。勿論、 挑戦を受けてくれますよね?」肩の天使型が、いやらしい笑いをした。 影田はどっかに行っちゃいました。 「な、何なんですかアイツは!?それに『エスト』って…訳が解りませんよ!」 小暮ちゃんと同じ、アタシもワケ解んない。 「…『エスト』と言うのはな、小暮君」とコタロー。 「『エスト』と言うのは、神姫を従えた20人ぐらいの不良チームだったんだ。 メンバーの中には強盗傷害裏バトルと、違法行為を行っていたヤツもいた。 そんな連中にアキオの昔の相棒、侍型「桜花」は破壊されたんだ」 「な…神姫を…先輩の神姫を破壊ですって!!??」 小暮ちゃんが、抱えていた小春ちゃんを思わず抱きしめた。 「…その敵討ちに、俺とアキオで主要メンバーを警察へ突き出したんだんだが… 今頃下っ端が出てくるとは…」 「…………サンタ子、準備はいいか?」 長い沈黙の後、アキオちゃんが口を開きました。 「待てよ、今更あんなヤツと実弾バトルなんて、何の意味があるんだ!」 「止めないで下さい、虎太郎さん」サンタ子ちゃんが割って入る。 「あの人達だけは許せないんです、何と言われようと。私一人だろうと戦いますよ!!」 「なに言ってるのサンタ子ちゃん、ミアちゃんもモチロン戦うよ!」 「私も戦います…あんな人、許せないです…!」 コタローが、みんなの顔を一人ずつ見つめてから言った。 「…………解った。ミア、みんなを守ってやるんだぞ…」 「アイアイサー!ミアちゃん頑張るよ!!」 商店街の中央に作られた試合会場は、いままでのどの試合の時よりも騒然としてる。 これが最後の試合だし、急遽実弾バトルになった事も影響してるのね。 サンタ子ちゃんはウエイトを外し、代わりに愛用の野太刀「花鳥風月」を装備してる。 空中高速接近戦が本来の戦闘スタイルなのです。 小春ちゃんはペイント弾を実弾にして、アタシはウレタン製の猫武器を本来のに戻す。 対して影田チーム。マスターは影田一人、天使型+砲台型×2のチーム。 砲台型は普通の装備に見えるけど…天使型の持ってるレーザーライフルがちょっと変。 ジョイント用の穴だらけだし、なんか大きくない? 「大変お待たせいたしました。それでは『あおぞら商店街杯・武装神姫チームバトル大会』 のファイナルバトルを開始します!レディ~~~ゴー!!」 「作戦は今まで通り、まず私が斥候に出ます」サンタ子ちゃんが飛び出した。 アタシと小春ちゃんは、サンタ子ちゃんから送られてくる映像をたよりに前進する。 「敵は動いていません、三人固まって広場の奥に引っ込んでるわ。敵の戦力を考えると 今回は小春さんに弾幕を張ってもらって、私とミアさんで順番に一撃離脱がいいかも しれません」 パーフェクトな作戦だと思うけど、何か、何かイヤな予感がするのよね… アタシと小春ちゃんは射程距離ギリギリのところまで移動してきた。これ以上近づくと 敵の射程距離にも入っちゃう。 ここからなら肉眼でも敵の三人を確認できる。ホントに動いてないわねぇ。まるで三人が 一つの砲台みたいに見える。 ハッ!!!! 「小春ちゃんサンタ子ちゃん、スグに離脱して!!!!!!!!」 私達が撤退を始めた直後、大砲が発射された。 それは、LC3レーザーライフルの射線じゃなかった。二人の砲台型から取り外した パーツを取り付け、残った裸の素体をパワーパックとして接続したソレは、レーザー バズーカと言った方がシックリくる。 直撃を予想したアタシは小春ちゃんを蹴り飛ばし(「小春ちゃんゴメン!」)その反動で 自分も回避行動をとる。 「小春ちゃん!!!」 「大丈夫、手をかすっただけです。ミアちゃんが助けてくれなかったら、私、多分 破壊されてました…」 小春ちゃんの左手が鈍く変色している。強がっているけど、かなり辛いはずだわ。 「二人とも大丈夫ですか!!?」サンタ子ちゃんが空から降りてきた。 「とりあえず命は無事だよ。でも、あの武器が…」 こちらより射線が長く、強力な武器。それは攻略しようとするだけで、多大な犠牲を 覚悟しなくちゃいけないってこと。 「…ミア、それからみんな、ギブアップするぞ」コタローから通信が入った。 「アレが動き出したら、それこそ最後だ。ミア、お前なら予想できるだろう?」 「そんな、虎太郎さん。まだやれます!私が囮になって」 「サンタ子、バカを言うな!確かにヤツは許せないが、お前達が犠牲になる必要は無い! それでいいな?アキオ、小暮」「……………あぁ…」「はい…」 「でも、小春さんだってこんな怪我を…桜花さん……うっううっっ」 フィールドの向こうでは、影田がニヤニヤしている。 沈黙。みんな気持ちは同じだけど、悔しいけど、どうする事も出来ない… アタシ以外は。 「コタロー、1分だけ時間をちょうだい。ミアがあのバズーカを破壊する!」 「え?あ、ミア!?何を…無茶だ、いくらお前でもあの距離、狙い撃ちされるぞ!」 「コタローお願い…ミアを信じて!」 「だが……」 『信じて!』 「…………………解った。だが、無理はするなよ…」 「ありがとう、コタロー」 ネットにダイブしてる時に、武装神姫と似た設定のマンガを見つけたの。その中で、 自分にダメージを与えることによって緊急回路を発動させ、ハイパー化するというのが あった。神姫でも同じ事が出来ないかな…というのが発端。 出来るのよ。危険だしコントロールが難しいけど。こっそり訓練だってしたし。 体の各動力部を慎重に臨界まで上げていき、擬似ダメージを蓄積させる。制御を失敗して しまえば、本当に爆発しちゃうかもしれない。 バズーカが動き出した。速度は早足程度だけど、確実にこちらに近づいてくる。 「二人とも、アレの後ろに周りこんでちょうだい!」「了解です」「え、あ、はい!」 この移動速度ならギリギリ射程距離に入った直後に発動できる。 案の定、発動準備が整った瞬間にバズーカの発射準備を始めた。もう遅いわよ! 「―――――――――バーストモード、いっくよぉ~!」 次の瞬間、アタシの体を真紅の光が包み込む。この警報シグナルが点いてる1分間が勝負。 突然のアタシの変化に驚いたのか、敵はあわててバズーカを発射する。 狙いが甘い!一旦左によけて、そのままバズーカ目指してダッシュする。 二撃目は見当違いな所へ発射。スピードアップしたアタシに全然対応できていない。 天使型の表情が見えた。なにか化物でも見るような顔をしている。ある意味化物かも しれないわね。今のアタシなら熊だって倒せるハズ。 三、四撃目を楽々かわし、天使型の目と鼻の先に到達。 2体の裸の素体はバズーカにケーブルで連結されて、無表情に立っている。ホントに パワー供給装置として使われているみたい。 天使型は…大きく目を見開いて、恐怖のあまり顔が引きつってる。 「後悔したって、もう遅いんだからね!!」 頭の中でEXゲージがピカピカ点滅してる感じ。時間が無いし、決めるわよ! 「超必殺……… 猫 ・ 乱 ・ 踊 !!! 」 アッパーフックアッパー手刀フックストレートフック肘肘アッパー裏拳フックアッパー 掌打フックアッパービンタビンタ肘肘肘アッパーフック膝膝膝膝フックアッパー 前蹴り回し蹴り回し蹴り踵落としトドメのサマーソルト!!! 一瞬でボロ雑巾のようになってしまった天使型は、最後のサマーソルトの勢いですっ飛んで いった。少しやり過ぎたちゃったかな? サンタ子ちゃんが来た。この急な展開にもちゃんと対応してる。流石です。 小春ちゃんは遠くで武器を構えてるけど、ビックリして固まっちゃってます。 「ミアさん、大丈夫ですか!?」 「サンタ子ちゃん…後はまかせちゃうね…」 警報シグナルの光が消えて、同時にアタシの意識も消えていきました。 その日の夜、やっとアタシは目を覚ましました。 結局大会はそのまま終了しちゃったそうです。残った2体の素体は天使型が倒された瞬間に 起動停止したそうで…ホントにパワーユニットとしてのみ使われてたのね。 影田は試合終了直後に姿を消しちゃったそうです。 それから。 バーストモードのせいでアタシのボディはボロボロになってたの。特に関節系の部品の 磨耗が激しく、修理には相当の手間がかかるんだって。 (虎太郎「手間なんていいんだ。それより俺は無理するなって言ったハズだぞ?」) 簡易素体に入れられたアタシは、もう1時間以上コタローからお説教されてます。 まぁコタローに心配掛けるのも何だし、当分の間は大人しくしてよっと。 当分の間は、ね! 第三話 意思を継ぐ者 へ進む 第一話 猫、飼いました へ戻る 三毛猫観察日記 トップページへ戻る